企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金額は、自社の退職金制度の目的や財務状況に基づいて設計することが基本です。
しかし、事業主や担当者にとっては「一般的な水準」や「適切な設定方法」に迷うことも多く、制度設計の悩みどころとなっています。
そこで本記事では、掛金の平均額や設定方法、決定時に押さえるべきポイントを整理します。
とくに企業型DCの導入を検討している事業主や人事担当者に向けて、制度設計の参考となる情報を分かりやすくまとめています。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金平均額は?

企業年金連合会の調査によると、掛金平均額は以下のとおりです。
| 区分 | 事業主掛金(月額平均) | 加入者掛金(月額平均) |
|---|---|---|
| 他制度を実施していない企業 | 16,336円 | 10,539円 |
| 他制度を実施している企業 | 11,775円 | 6,197円 |
※ 参考:企業年金連合会「2024年度企業型確定拠出年金実態調査結果」
ここでいう「他制度の実施」とは、DBや厚生年金基金などの他の企業年金制度を併用しているかどうかです。
企業型DCと他制度を併用している場合は掛金が低く、企業型DC単独の場合は高くなる傾向があり、他制度の併用有無で掛金の水準が異なります。
この違いは、退職給付の制度設計の差によるものと考えられますが、それぞれの詳細について以下で解説します。
他制度の併用なしだと掛金が高くなる理由
他制度を併用せず、企業型DC単独の場合、事業主掛金の平均月額が16,336円、加入者掛金の平均月額が10,539円です。これは他制度を併用している企業と比較すると、どちらも高い水準になります。
こうした差が生じる要因について一概には言えませんが、一般的には次のような点が影響していると考えられます。
■事業主掛金が高くなる理由:
退職給付制度の主軸を企業型DCに集約するケースが多く、掛金が高くなりやすい傾向があるため
■加入者掛金が高くなる理由:
資産形成への関心が高まり、加入者自身による上乗せ拠出(マッチング拠出)が検討されやすいため
それぞれについて、解説します。
事業主掛金が高くなる理由
事業主掛金が高くなる理由としては、退職給付として資金を企業型DCに集中させやすいことが挙げられます。
企業型DC単独の場合、退職金制度の主軸を企業型DCに集約しているケースが多く見られるため、結果として事業主掛金が高くなると考えられます。
加入者掛金が高くなる理由
加入者掛金が高くなる理由としては、従業員の金融リテラシーの向上などが挙げられます。
退職金制度の主軸を企業型DCとした場合、従業員が老後資産について考える機会が増えやすく、それに伴って金融への関心が高まると考えられます。
とくに、こうした関心が高まるきっかけとなるのが、投資教育の実施です。
企業型DCを導入している企業には、投資教育の実施が努力義務として求められており、従業員が金融知識に触れる機会が多くなります。その結果、資産形成に関する理解が深まり、加入者自身の拠出が進むと考えられます。
なお、マッチング拠出の法改正により、2026年4月以降は加入者掛金が事業主掛金以下である必要がなくなりました。
これにより拠出限度額の範囲内であれば、従業員自身が掛金を柔軟に設定できるようになったため、今後は加入者掛金の増加が見込まれます。
他制度との併用で企業の掛金が低くなる理由
企業型DCと他制度を併用している企業は、事業主掛金の平均月額が11,775円、加入者掛金が6,197円です。
こちらも企業型DCの活用状況や従業員の意識について一概には言えませんが、一般的には次のような点が影響していると考えられます。
■事業主掛金が低くなる理由:
他制度(DBなど)で一定の給付を確保しているため、企業DCの掛金を高くする必要がないため
■加入者掛金が低くなる理由:
他制度で老後資金のベースが準備されているので、企業型DCの拠出を進める必要がないため
DBや厚生年金基金などの他制度と併用している場合、事業主はそれぞれの制度ごとに退職給付の資金を確保する必要があります。
その結果、退職給付における資金配分を考慮する必要があり、企業型DC単体での掛金は抑えられる傾向があります。
実際に大企業では、企業型DCとDBを併用した「ハイブリッド型」の退職給付設計がよく見られます。安定した給付を確実に確保しつつ、企業型DCで運用益の上乗せを狙うことができる設計です。
このような設計は1人当たりの拠出額は大きいものの、制度ごとに拠出が分散されるため、企業型DC単体で見ると掛金が低くなりやすい点が特徴です。
また、加入者掛金についても、他制度で老後資金のベースが準備されていることから、追加拠出の必要性が相対的に低くなる可能性が考えられます。
【導入企業の傾向】企業型確定拠出年金が適している企業とは?

とくに企業型DCの導入に適していると言える企業は、以下のとおりです。
- 採用力を高めたい企業
- 従業員の定着を高めたい企業
- 退職給付コストを平準化したい企業
- 既存の退職金制度を見直したい企業
ここでは、人事戦略や財務面、福利厚生の見直しなどの視点から、企業型DCを導入するメリットについて解説します。
採用力を高めたい企業
採用市場での競争力を高めたい企業には、企業型DCが有効な打ち手となります。
近年は、給与水準のみではなく福利厚生や退職給付制度の充実度なども、求職者の重要な判断材料となりつつあるためです。
例えば、求人票や採用ページに「退職金制度あり(企業型DC)」と明記すれば、従業員の資産形成を積極的に支援する企業としてアピールが可能です。
とくに給与水準での差別化が難しい企業にとって、退職給付や資産形成支援の制度の整備は、採用活動の訴求として活用しやすいでしょう。
従業員の定着を高めたい企業
従業員の定着率向上を目指す企業にも、企業型DCは効果的な制度です。
企業型DCは毎月掛金が積み立てられるため、在籍期間が長いほど運用期間が伸び、効率的な資産形成を実現できる可能性が高まります。
さらに、従業員自身が運用する仕組みであるため、老後資産の見通しを把握するきっかけにもなります。
老後に向けた備えを具体的にイメージできれば、将来への不安が軽減され、安心感を持って働ける環境づくりにもつながるでしょう。
このような「毎月の拠出」と「自分事による見える化」は、従業員が会社に長く在籍するメリットをより実感しやすくなる効果が期待できます。
退職給付コストを平準化したい企業
将来の退職給付コストの負担を回避したい企業にも、企業型DCは適した制度です。
DBは将来の給付額を企業が約束する制度のため、運用結果次第ではあるものの、企業は追加の拠出を求められるリスクがあります。
一方、企業型DCは、毎月の掛金を拠出した時点で事業主の義務が果たされます。そのため、追加の拠出を求められるリスクがなく、長期的なコスト予測をしやすい点が特徴です。
また、このような退職給付会計の事務負担軽減は、大企業のみではなく中小企業においても大きなメリットと言えます。人件費コストの見通しが立てやすくなり、安定した経営計画を組みやすくなります。
既存の退職金制度を見直したい企業
既存の退職金制度に課題を抱えている企業にも企業型DCは有効です。
とくに「退職一時金制度だと退職給付債務が膨らみやすい」、「中退共だと運用や掛金設計の柔軟性に乏しい」といった課題が挙げられるでしょう。
一方で、企業型DCは事業主の要望に応じた柔軟な制度設計が可能で、自社の状況に合わせた設計が行えます。
例えば、退職一時金から企業型DCへ段階的に移行すれば、退職給付債務を圧縮しながら従業員の資産形成支援も同時に進められます。
中退共に加入している場合は、企業規模の拡大、合併、会社分割、事業譲渡など一定の条件を満たす場合に、企業型DCへの引き継ぎも可能です。
ただし、既存制度を見直す際は不利益変更にならないよう、移換可否、従業員同意、規約変更、退職金規程との整合性を確認することが必要です。
とくに中退共からの移行を検討する場合は、制度上の要件を満たすかを専門家や関係機関に確認したうえで進めるケースが一般的です。
事業主掛金の掛金額の設定方法とは

事業主掛金は「定額制」「定率制」「定額+定率の併用」の3つの方法で設定できます。
自社の人事制度や財務状況によって最適な方法は異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで制度設計することが重要です。
定額制
定額制は、全従業員に対して同一の掛金を一律で拠出する方法です。例えば、従業員全員に一律で1万円の掛金を拠出するなどが挙げられます。
掛金総額が従業員数に比例するシンプルな計算であることから、キャッシュフローの観点から見て、規模の小さい企業でも導入しやすい点が特徴です。
また大企業の場合は、事務負担の大幅な軽減などにつながります。
ただし、評価や処遇との連動が難しく、一定額の拠出となる点はデメリットです。評価制度との連動性を重視する企業には、定率制や併用型の採用が適しています。
定率制
定率制は、従業員の給与に対して一定の割合で掛金を算出する方法です。役職や等級に応じて料率を設定するケースもあります。
例えば、従業員全員に一律で基本給の3%を掛金とする設計や、役職が上がるごとに掛金の料率も上げる設計などが挙げられます。
給与水準の高い従業員ほど掛金も大きくなることから、人件費構造と整合性のある設計が可能です。
また、昇給や役職に連動させたい企業や、評価制度と一貫性を持たせたい企業は、定率制での導入が適しています。
従業員のキャリアアップに合わせて掛金も増えるため、長期勤続のインセンティブと捉えることも可能です。
ただし注意点として、給与改定のたびに掛金額が変動するため、財務面のシミュレーションがやや複雑になる点が挙げられます。
加えて、拠出限度額(2026年12月以降は月6.2万円)を超えないよう、給与水準の高い従業員の掛金管理にも配慮が必要です。
定額+定率の併用型
定額制と定率制を組み合わせた「併用型」は、両方のメリットを取り込める方法です。
例えば、従業員全員に一律で月額5,000円を拠出したうえで、基本給の2%を上乗せするといった形が挙げられます。
従業員全員に対して一律で老後資産のベースを準備しつつ、昇給や貢献度に連動できるため、人事制度との一貫性と公平性を両立しやすい点が特徴です。
一方で、定額・定率の両方の管理が必要となるため、制度運営の事務負担はやや重くなります。
掛金体系を複雑にしすぎないよう、設計段階で従業員への分かりやすい説明方法も含めて導入を進めることが重要です。
掛金額を決める際のポイント①掛金の上限
企業型DCの掛金には、法令で定められた拠出限度額があり、他制度の有無によって上限が異なります。
2024年12月の制度改正により、企業型DCの拠出限度額の算定方法は、加入者ごとの他制度掛金相当額(DB等の掛金相当額)を控除する方式へ変更されました。
以下で、現行制度と2026年12月施行の改正内容を整理します。
| 区分 | 現行(〜2026年11月) | 改正後(2026年12月〜) |
|---|---|---|
| 他制度を実施していない企業 | 月額5.5万円 | 月額6.2万円 |
| 他制度を実施している企業 | 月額5.5万円-他制度掛金相当額 | 月額6.2万円-他制度掛金相当額 |
※ 参考:厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」
企業型DCと他制度を併用している企業では、企業型DCの拠出可能額が、DBなどの他制度掛金相当額を差し引いた金額となります。一律で6.2万円まで拠出できない点には、注意が必要です。
また、2024年12月の制度改正前から企業型DCを実施している企業では、一定の経過措置が適用される場合があります。
既存制度を見直す際は、自社の規約内容やDB掛金相当額、経過措置の有無を確認することが重要です。
なお、2026年12月の改正は「2026年12月制度改正・2027年1月の掛金引落分から増額」というスケジュールで運用される見込みです。
上限額そのものが引き上げられるため、規約改定や限度額設定の見直しが求められます。
掛金額を決める際のポイント②想定利回り
想定利回りとは、企業型DCの掛金水準やモデル給付額を検討する際に、制度設計時の前提として置く運用利回り(退職までの期間の年平均ベース)のことです。
既存の退職金制度から企業型DCへ移行する場合、同等の退職金水準を維持するために必要な掛金額を逆算する必要があります。
企業年金連合会の2024年度調査によると、想定利回りの平均値は2.02%で、分布は以下の通りです。
| 想定利回りの設定分布 | 割合 |
|---|---|
| 0.0% | 2.9% |
| 0.0%超0.5%以下 | 2.9% |
| 0.5%超1.0%以下 | 8.4% |
| 1.0%超1.5%以下 | 14.8% |
| 1.5%超2.0%以下 | 36.1% |
| 2.0%超2.5%以下 | 22.2% |
| 2.5%超3.0%以下 | 8.2% |
| 3.0%超4.0%以下 | 2.1% |
| 4.0%超5.0%以下 | 1.3% |
| 5.0%超 | 1.1% |
※ 参考: 企業年金連合会「2024年度企業型確定拠出年金実態調査結果」
表から分かるように、全体の約半数が1.5%超〜2.5%以下のレンジに集中しています。
高い利回りを想定すると、目標の退職金額に対して必要になる掛金を低く設定できます。一方で、実際の運用成果が下回った場合に従業員の受取額が想定より少なくなるリスクがあります。
低い利回りを想定した場合は、運用成果に対する安全余地が広がり、従業員が安心して運用できるでしょう。ただし、掛金負担は重くなる点には注意が必要です。
掛金額を決める際のポイント③マッチング拠出

マッチング拠出は、事業主掛金に従業員自身が上乗せして拠出できる仕組みです。事業主掛金は事業主が設定し、残りの拠出上限額の範囲内で従業員が加入者掛金を設定します。
企業年金連合会の2024年度調査(※)では、マッチング拠出を導入している企業の割合は52.4%で、過半数の企業が採用している状況です。
※ 企業年金連合会「2024年度企業型確定拠出年金実態調査結果」
ただし、従業員がiDeCoに加入している場合は、マッチング拠出を利用できません。マッチング拠出制度を導入するのであれば、従業員ごとに「マッチング拠出を利用するか」「iDeCoを利用するか」を選択する形になります。
マッチング拠出とiDeCoのどちらが従業員に適しているかを判断しながら、企業型DCの導入を検討することが重要です。
なお、マッチング拠出の導入による従業員のメリットは、以下のように多岐にわたります。
幅広い掛金の設定ができるようになる
2026年4月の法改正により、加入者掛金の上限ルールが見直されました。具体的には、「加入者掛金は事業主掛金を超えてはならない」という制限が撤廃されています。
この法改正に伴い、拠出限度額の範囲内で加入者掛金を柔軟に設定できるようになり、従業員は限度額を有効に活用しやすくなりました。
所得控除や手数料負担の解消
マッチング拠出の加入者の掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となるため、税制面の優遇も従業員に提供できます。
また、従業員が新たに手数料を負担することなく、老後資産の形成に取り組める点もメリットです。一般的に企業型DCの口座管理手数料は企業が負担するため、従業員が追加で負担する必要がありません。
一方で、企業が従業員のiDeCoに掛金を上乗せして助成する「iDeCoプラス」を導入する場合は、加入者である従業員側に手数料が生じます。企業側が支払う口座管理手数料などの負担は抑えられますが、従業員に負担がかかる点は注意が必要です。
掛金額を決める際のポイント④選択制DC

選択制DCとは、掛金として拠出するか、給与や賞与として受け取るかを選択できる制度のことです。従業員の給与や賞与の一部を前払退職金として手当に位置づけ、従業員自身が拠出するか受け取るかを選択します。
企業年金連合会の2024年度調査(※)では「選択制DCとして実施している」が19.1%、「退職給付制度と選択制DCの組み合わせ」が9.7%と、約3割の企業が選択制DCを採用しています。
とくに給与ではなく掛金とすることで、非課税かつ社会保険料の算定基礎から外れる点は選択制DCの大きなメリットです。
給与の一部を掛金へ振り替える場合は、総額の人件費が原則変わらないことから、掛金として新たな原資を用意する必要がないという特徴もあります。
社会保険料においては、従業員と企業双方が軽減効果を得られる可能性があります。
ただし、その軽減効果に応じて、老齢厚生年金の給付額や傷病手当金、出産手当金などの社会保険給付に影響する可能性がある点には注意が必要です。
そのため、事業主はデメリットも理解したうえで、不利益となりうる点についても従業員に対して正しく説明することが求められます。
※企業年金連合会「2024年度企業型確定拠出年金実態調査結果」
まとめ
企業型確定拠出年金の掛金は、他社の平均額を参考にしつつも、自社の退職金規程、財務状況、人事戦略に沿って設計することが重要です。
平均額はあくまで目安であり、実際の掛金水準は、退職給付制度全体の位置づけや従業員に提供したい福利厚生の水準によって変わります。
拠出限度額や想定利回り、マッチング拠出などの関係を総合的に検討すれば、自社に適した掛金体系を設計しやすくなります。
とくに制度改正により拠出限度額やiDeCoとの関係が見直されるため、既存制度のある企業も新規導入を検討する企業も、早めに制度設計を確認しておきましょう。
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