企業が理解しておくべき従業員の資産形成とは?
制度の種類や導入のポイントを解説

資産形成とは、将来に向けて預貯金・投資・年金制度などを活用し、計画的に資産を積み上げることです。


近年は少子高齢化や物価上昇を背景に、企業が従業員の資産形成を「福利厚生」として支援する重要性が高まっています。


本記事では事業主・人事担当者の方に向けて、活用できる資産形成制度の種類と特徴を整理します。


さらに、従業員のお金の不安を解消することが、採用力強化・定着率向上・生産性アップにつながる理由についても解説します。

採用の新常識 優秀な人材から「選ばれる企業」が実践している福利厚生のポイントとは?

目次

    資産形成とは

    資産形成とは

    資産形成とは、将来の生活を豊かにするために、お金や財産を計画的に増やしていくことです。

    これは「貯蓄」だけでなく、時間をかけてお金にも働いてもらう「運用」を行うことを指します。株式・投資信託・不動産などへの投資を通じて「資産を育てる」という視点が含まれる点がポイントです。

    特に、運用において鍵となるのが「複利」の効果です。

    複利とは、運用で得た利益を元本に加えて再投資し、「雪だるま」式にお金を増やしていく仕組みのことです。この複利の効果を活かすことで、長期間にわたって資産を効率よく増やすことができます。

    また、複利の効果を最大限に活かすには「時間」が重要です。

    老後の生活費や教育資金、住宅購入など、将来の目標に備えるために早い段階から始めることが大切なのです。

    従業員の資産形成を支援する理由

    従業員の資産形成を支援する理由

    従業員の資産形成支援は、企業にとって「コスト」ではなく「投資」です。その背景と効果を、3つの視点から整理します。

    社会的背景

    少子高齢化の進行と物価上昇により、従業員が公的年金だけで老後の生活を支えることは、年々難しくなっています。

    2024年10月1日時点の日本の高齢化率は29.3%(※1) に達し、過去最高を更新しました。また厚生労働省の人口動態統計では、2024年の合計特殊出生率は「1.15」(※2)と過去最低を更新しています。

    年金を支える現役世代が減り続ける中、厚生労働省の2024年財政検証では、経済や人口の前提によって将来の給付水準に幅があることが示されています(※3)。

    公的年金だけに依存せず、現役時代から自助的に備える重要性は高まっていると言えるでしょう。

    加えて、2025年の消費者物価指数は前年比3.1%上昇となり、2年連続で2%を超える物価上昇が続いています(総合指数)(※4)。

    実質的な生活コストは着実に上がっており、公的年金だけに頼ることのリスクは年々増加しています。

    ※1 出典:内閣府「令和7年版高齢社会白書
    ※2 出典:厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況
    ※3 出典:厚生労働省「令和6年(2024)年金財政検証
    ※4 出典:総務省「報道資料:2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)12月分及び2025年(令和7年)平均

    福利厚生で採用力強化

    中小企業を中心に人手不足が深刻化する中、福利厚生の充実は採用競争力を左右する重要な要素です。

    なかでも資産形成支援は従業員の将来に直結するため待遇面でのインパクトが大きく、他社との有力な差別化要因となります。

    求人票や採用ページ「資産形成をサポートする企業」として打ち出すことは、求職者への強いアピールにつながります。

    こうした制度の有無が「選ばれる会社」かどうかを分ける判断基準となっているのです。

    従業員の心理的安定

    老後のお金への不安は、従業員の集中力や生産性に悪影響を及ぼす可能性があります。

    日本FP協会の調査によると、将来のお金に不安があると回答した人は「8割超」(※5)にのぼり、従業員の間に「金融不安」が広く存在することがうかがえます。

    こうした不安は、業務中の集中力低下を招くリスクがあるだけでなく、より良い待遇を求めた離職の引き金にもなりかねません。

    企業が資産形成の仕組みを整備し、給与天引きで「無理なく積み立てられる環境」を提供することは、従業員に「会社が将来を一緒に考えてくれている」という安心感を与えます。

    この信頼関係こそが、エンゲージメントの向上や離職防止につながるのです。

    資産形成支援は、従業員の「今の仕事への集中」と「会社へのロイヤルティの向上」、その両方に効果をもたらす施策と言えるでしょう。

    ※5 出典:日本FP協会「『これからのお金と給料に関する意識調査』結果

    福利厚生として活用できる資産形成の代表的な種類

    福利厚生として活用できる資産形成の代表的な種類

    従業員の資産形成を支援する制度には、複数の選択肢があります。

    それぞれ仕組みや企業側の関与度が異なるため、自社の規模や目的に合った制度を選ぶことが重要です。

    • 財形貯蓄(一般・住宅・年金)
    • 従業員持株会
    • 職場つみたてNISA
    • 企業型確定拠出年金(企業型DC)

    財形貯蓄(一般・住宅・年金)

    財形貯蓄は、国が法律で定めた勤労者向けの貯蓄制度で、給与や賞与から天引きして積み立てる仕組みです。

    企業が導入することで、従業員が無理なく貯蓄を続けられる環境を整備できます。

    なお、財形貯蓄には、目的に応じた3種類があります。

    種類 目的 非課税優遇 引き出し条件
    一般財形 自由(旅行・教育など) なし いつでも可能
    財形住宅(※) マイホーム取得・リフォーム あり 住宅目的のみ
    財形年金(※) 老後資金 あり 60歳以降・年金形式

    ※財形住宅と財形年金は、合算で元本550万円まで利子などが非課税となります。(うち財形年金は385万円まで。財形年金で保険型を利用する場合は払込額385万円まで。)なお、一般財形には非課税優遇はありません。

    メリットは、給与天引きで自動的に積み立てられるため、従業員が貯蓄を続けやすい点です。

    また、財形住宅・財形年金では利子への課税が優遇されます。企業が「財形給付金」や「財形基金」を上乗せする形にすれば、福利厚生としての魅力がさらに高まります。

    デメリットとしては、目的外の引き出しをすると非課税優遇が遡って取り消される点です。

    また、運用益を狙う仕組みではないため、資産を増やすというよりも「確実に貯める」制度と位置づけるのが適切です。

    従業員持株会

    従業員持株会とは、従業員が毎月一定額を拠出して自社株を購入・保有する制度です。

    会社の成長が従業員自身の資産形成に直結するため、当事者意識の醸成にもつながります。

    従業員持株会では、毎月の給与から一定額を天引きし、場合によっては会社が「奨励金」を上乗せして自社株を購入します。

    奨励金の相場は拠出額の5〜10%程度が一般的で、これが実質的な利回りとして機能します。

    メリットは、奨励金による即時リターンが得られる点です。また、従業員が株主になることで、業績への関心や会社へのエンゲージメントが高まりやすくなります。

    デメリットは、資産が自社株に集中するリスクです。会社の業績が悪化した場合、給与と資産の両方が同時に毀損(きそん)する可能性があります。

    非上場企業では株式の換金が難しいケースもあるため、導入前に従業員への丁寧な説明が必要です。

    職場つみたてNISA

    職場つみたてNISAとは、企業が金融機関と契約し、従業員のNISA(少額投資非課税制度)活用を給与天引きでサポートする仕組みの総称です。

    法令上の独立した制度名ではなく、各金融機関が提供するサービスとして導入されます。

    通常のNISAは従業員が個人で口座を開設・管理しますが、職場つみたてNISAでは給与天引きで毎月自動的に積み立てられます。

    従業員からすると、口座開設や注文などの手続きの手間がかかりません。

    2024年からの新NISAでは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠と合算した生涯非課税保有限度額が1,800万円に拡大されました。職場つみたてNISAは、この新NISAの枠組みの中で活用できる制度です。

    メリットは、運用益が非課税になる点です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座内では非課税となります。

    給与天引きによる自動積立で、従業員は日々の相場を気にすることなく、長期・分散・積立の投資を継続しやすくなります。

    ただし、こうしたメリットがある一方で、職場つみたてNISAは日本国内ではまだ十分に普及しているとはいえないのが実情です。

    その背景には、企業が制度を導入する際、金融機関との契約締結や従業員への投資教育の実施が必要となり、初期段階での負担が大きい点が挙げられます。

    加えて、運用成績によっては元本割れのリスクがあるため、従業員一人ひとりへの丁寧な説明が欠かせず、こうした導入時のハードルが職場つみたてNISAの普及を阻む要因となっています。

    しかし、投資教育の取り組みは、従業員の金融リテラシーを底上げする貴重な機会でもあります。

    長期・積立・分散といった資産形成の基本を学ぶことで、税制優遇を活かしながら自助努力で運用できる職場つみたてNISAにも関心を持つかもしれません。

    老後資産の準備を担う企業型DCと、ライフイベントに応じて柔軟に引き出せる職場つみたてNISAは、目的や使い勝手が異なる制度として互いに補い合う関係にあります。

    両制度を組み合わせて活用することで、従業員はより厚みのある資産形成を実現できるでしょう。

    企業型確定拠出年金(企業型DC)

    企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が毎月掛金を拠出し、従業員が自ら運用方法を選んで老後資金を準備する私的年金制度です。

    税制優遇・社会保険料軽減・採用差別化と、企業・従業員の双方にメリットがある制度として近年は導入企業が増えています。

    企業型DCの掛金上限は2026年12月(2027年1月拠出分)より、確定給付型(DB)など他の企業年金がない場合で、事業主掛金額とマッチング拠出額およびiDeCo拠出額の合計が「月額62,000円」の範囲内となります。

    確定給付型(DB)など他の企業年金を併用している場合は、合計拠出額が月額62,000円を超過しないよう、DB等の他制度掛金相当額などを踏まえて企業型DCとiDeCoの上限額を調整する必要があります。

    メリットは、企業・従業員双方に税制・コスト面の恩恵がある点です。企業側は、拠出する掛金を損金算入できるため、法人税の軽減につながります。

    デメリットとしては、導入・運営コストが発生する点や、継続的な投資教育が義務付けられている点が挙げられます。

    従業員にとっては、運用の結果次第で将来の受取額が変動するため、制度の仕組みや運用手法を理解してもらうための丁寧なサポートが欠かせません。

    従業員が企業の掛金に上乗せして自ら拠出できる「マッチング拠出」を導入すれば、老後資金をより手厚く積み立てられます。

    マッチング拠出分は従業員自身の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となるため、所得税・住民税の軽減効果も得られます。

    また、「選択制DC(※)」という設計にすれば、拠出分が給与扱いにならないため、企業・従業員双方の社会保険料が軽減される効果もあります。

    福利厚生としてのインパクトがあり、採用差別化や定着率向上が人件費の最適化につながる可能性があります。

    ただし、選択制DCには注意点もあります。

    社会保険料の算定基礎が下がることで、将来受け取る厚生年金の額や、傷病手当金・出産手当金・失業給付などの給付額も連動して下がる可能性があります。

    導入時には、こうしたトレードオフを従業員に丁寧に説明し、納得を得たうえで運用することが不可欠です。

    ※選択制DC(選択制確定拠出年金)とは
    給与の一部を企業型DCの掛金として拠出するか、給与として受け取るかを従業員が選べる制度。掛金に回した分は給与として支給されないため、所得税・住民税や社会保険料の負担が軽くなる場合があります。

    一方で、給与が下がる扱いになるため、将来の厚生年金や傷病手当金、失業給付の減少や、住宅ローン審査に影響するなどの注意点もあります。

    まとめ

    従業員の資産形成支援には、財形貯蓄・従業員持株会・職場つみたてNISA・企業型DCと、目的や特性の異なる複数の制度があります。

    なかでも企業型DCは、掛金の損金算入による税負担軽減、社会保険料の軽減効果、採用・定着率の向上と、企業・従業員の双方にメリットが大きい制度です。

    福利厚生の充実を検討している企業にとって、まず導入を検討すべき選択肢と言えるでしょう。

    少子高齢化やインフレといった社会変容の中で、従業員が抱える「将来のお金への不安」を解消することは、もはや個人の問題ではなく企業の重要な戦略課題となります。

    企業型DCは、単なる年金制度にとどまらず、従業員のエンゲージメントを高め、長期的な安心を提供する強力な福利厚生ツールです。

    他社にはない「選ばれる理由」を自社の福利厚生に取り入れませんか?採用力の強化につなげるポイントをまとめた以下の資料を、ぜひご活用ください。

    採用の新常識 優秀な人材から「選ばれる企業」が実践している福利厚生のポイントとは?

    監修者名
    柴田 充輝
    監修者プロフィール
    厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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