企業型確定拠出年金を導入している企業には、従業員への「継続教育」が法令上の努力義務として求められています。
しかし、実際には導入時の説明だけで終わってしまい、その後のフォローができていない企業も少なくありません。
継続教育を怠ると、従業員が制度を十分に活用できず、将来の資産形成に悪影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、継続教育で伝えるべき具体的な項目や、無理なく続けられる実施方法などを解説します。
従業員の資産形成を支援するために、ぜひ参考にしてみてください。
確定拠出年金の「継続教育」とは?
確定拠出年金の「継続教育」とは、企業が、企業型DCに加入している従業員に対し、制度や資産運用に関する知識を継続的に提供する教育活動です。
この継続教育は、確定拠出年金法第22条の規定により、企業型DCを実施している事業主に課される努力義務として位置づけられています。
企業が継続教育を怠るリスク例
継続教育を怠った場合、企業と従業員の双方にリスクが生じます。
企業側のリスクとしては、法令で定められた努力義務を果たしていない」というコンプライアンス面での問題です。
一方で、従業員側は適切な知識を得られない場合、将来の資産形成に悪影響を及ぼすおそれがあります。
また、マッチング拠出やiDeCoなど、有用な制度を活用する機会を逃してしまうかもしれません。
離職時に適切な手続きを取らないまま放置してしまうと、自動移換(年金資産が国民年金基金連合会に強制的に移される状態)されます。
これにより、手数料負担や運用機会の損失といった不利益を被るケースも少なくありません。
継続教育の必要性
確定拠出年金は従業員自身が運用方法を選択する制度であるため、企業としては、金融市場の変化や制度改正、ライフステージの変化に応じた情報提供を継続的に行うことが欠かせません。
厚生労働省の資料においても、加入後も継続的に実施することが必要であり、法令上も事業主の責務として明確に位置付けられています。
※ 参考:厚生労働省「企業型DCを実施する事業者の皆様へ 適切な商品選択に向けた取組のために ガイドブック」
【実務ガイド】投資教育で伝えるべき項目

投資教育で従業員に伝えるべき内容は、厚生労働省の法令解釈通知によって例示されています。
しかし、すべての項目を一度に伝えようとすると従業員の理解が追いつかず、かえって学習意欲を削いでしまうおそれがあります。
そこで、加入者が最低限身につけるべき「基本的知識」と、さらに深い理解を促す「望ましい知識」に整理し、優先順位をつけて提供することが推奨されます。
基本的知識
まず企業として従業員に身につけてもらうべき基本的知識として、以下の4つの柱があります。
- 確定拠出年金制度の理解
- 投資を行うにあたって必要な知識
- リタイアメントプランニングに必要な知識
- 制度を活用するための実務知識
まずは制度の仕組みや税制優遇のメリット、他の年金制度との違いなど、制度全体を理解してもらう必要があります。
また、投資にあたって知っておくべきリスクとリターンの関係、分散投資の考え方といった基礎的な投資知識についても、企業として丁寧に伝えることが欠かせません。
リタイアメントプランニングでは、老後に必要な資金の考え方や公的年金制度の基本、長生きリスクへの備えなどを中心に情報提供を行います。
受け取る際の出口戦略を考えるうえで、運用商品の選択方法や給付を受ける際の手続きなども重要な情報です。
これらの情報を適切に提供することが、制度を有効活用してもらうための基盤となります。
望ましい知識の例
基本的知識に加えて、企業としては、従業員がより効率よく資産形成を進めるための情報提供も重要です。
例えば、市況(マーケット)の見方や経済指標の読み方を理解することで、従業員が自身の運用状況をより深く把握できるようになります。
また、ライフプランニング(現役時代のマネープラン)およびリタイアメントプランニング(老後の家計管理)の視点を持つことで、より長期的な視点で資産形成を考えられるようになります。
個人資産も含めたトータルアセットアロケーション(資産配分)を検討する重要性も、企業として伝えるべき内容です。確定拠出年金だけでなく、預貯金や保険、その他の投資も含めた全体最適を考える視点が求められるためです。
さらに、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)など、他の税制優遇制度の活用方法も伝えましょう。
公的年金の繰上げ受給・繰下げ受給の効果についても情報提供することで、より幅広い選択肢を持てるようになるでしょう。
加入している従業員が主体的に「自分にとって最適な運用方法は何か」を考えるためにも、事業主が果たすべき役割は大きいと言えます。
制度改正や状況変化に応じた追加内容例
制度や環境が変化した際には、企業としてタイムリーな情報提供を行うことが欠かせません。
例えば、2026年4月にはマッチング拠出に関する法改正がありましたが、マッチング拠出が導入されている企業においては改正に対する自社の対応や、マッチング拠出とiDeCoの選択について、それぞれのメリット・デメリットを比較した情報提供が必要です。
また運用商品ラインナップが変更される際、特に商品が除外される場合は、代替商品への移行方法や必要な手続きについて丁寧に説明する必要があります。
商品が追加される場合も、新商品の特徴や既存商品との違いを伝えることで、従業員の理解を促すことができます。
無理なく続ける!継続教育の具体的な頻度と実施方法

継続教育を効果的に実施するには、適切な頻度とタイミング、そして従業員が理解しやすい方法を企業として選択することが重要です。
ここでは、企業が無理なく継続できる実践的なアプローチを紹介します。
導入時教育
導入時教育は、制度を新たに導入する際、または従業員が新たに加入資格を得た際に実施する初回の教育です。
この段階では、確定拠出年金の基本的な仕組みや税制メリット、運用商品の選び方など、制度を理解し活用するための土台となる知識を提供します。
ただし、この導入時教育だけでは十分とは言えません。一度の説明ですべてを理解し記憶することは難しく、また制度改正や市場環境の変化にも対応できないためです。
そこで、企業としては継続教育を通じて従業員に徐々に理解を深めてもらうというアプローチが重要になります。
継続教育
継続教育は導入後、企業型DC加入者へ一定の頻度で行う投資教育です。
予算や業務の繁閑などに応じて毎年度の計画に組み込むことで、企業として無理なく継続しやすくなります。
例えば年に1回、全従業員向けにWebセミナーを開催するといった定期的なアプローチが考えられるでしょう。
また世代別や役職別の人事研修が行われている企業では、その研修時に継続教育の時間を盛り込むことで、定期的な投資教育機会を与えることが可能になります。
30代向けには資産形成の基礎、50代向けには受給方法や退職後の資産管理など、年齢に応じた内容を提供することで、より実践的な学びにつながります。
継続教育の実施タイミングの例
効果的な継続教育を行う上では、企業として実施タイミングを適切に選ぶことも重要な要素となります。
運用報告書の到着時
運用報告書の到着時は、絶好の教育機会です。
加入直後は実感がわかないため、実際に運用が始まり「お取引状況のお知らせ(運用報告書)」が届いた頃に合わせて実施すると、従業員が自分事として捉えやすくなり、効果的です。
自身の資産状況を確認するタイミングで教育を受けることで、学んだ知識をすぐに活用できます。
法改正や経済環境の変化のタイミング
法改正や経済環境の変化があった際も、企業として情報提供を行うべき重要な機会です。
例えば税制改正があった場合、影響や対応方法について説明することで、従業員の不安を軽減できるでしょう。
制度変更時
運用商品の変更時やマッチング拠出の導入時なども、教育を実施すべきタイミングです。
商品ラインナップの変更は従業員の資産に直接影響するため、企業として丁寧な説明を行うことが欠かせません。
実施方法の例
継続教育の実施方法は、企業の規模や予算、職場の状況に応じて、企業として適切な方法を選択することができます。
外部委託
人的リソースの制約などにより、自社内での投資教育の実施が困難な場合は、継続投資教育を運営管理機関や企業年金連合会などに継続投資教育を外部委託することも可能です。
専門家に任せることで、質の高い教育を提供しながら企業側の負担を軽減できます。
双方向型の形式で開催
従業員の理解を深めるためにも、双方向型の集合研修やWebセミナー(オンライン研修・ライブ配信)を実施することが効果的です。
質問に答えながら進行できるため、従業員の理解度を確認しつつ、疑問点をその場で解消できる点が大きなメリットです。
複数の方法を組み合わせる
ハンドブックをはじめとした発行物やイントラネットでの記事掲載、ビデオやeラーニングといった媒体を併用して用いることも有効です。
複数の方法を組み合わせることで、従業員が自分のペースで学べる環境を整えられます。
教育効果を向上させる「ツール」の活用
継続教育の効果を高めるには、企業として、従業員が自身の状況を具体的にイメージできるツールを活用することが有効です。
公的年金シミュレーターや加入効果シミュレーションなどを活用することで、従業員が公的年金の受給見込額を把握し、「いくら足りないか」を可視化したり、税制優遇の効果がどのくらいかを把握したりすることができます。
数字として明確に示されることで、老後資金への危機感や必要性、企業型DCのメリットがリアルに感じられ、自発的な運用改善を促すことが期待できるでしょう。
例えば「従業員の公的年金は月額○○万円の見込みです。老後の生活費として月額△△万円必要と仮定すると、□□万円不足します」といった形で示すことで、確定拠出年金での資産形成の重要性を理解しやすくなります。
まとめ
確定拠出年金の継続教育は、法令で定められた事業主の努力義務であり、従業員の適切な資産形成を支援するために欠かせない取り組みです。
導入時教育だけでなく、定期的な情報提供を通じて、従業員が制度を正しく理解し活用できる環境を整えることが求められます。
継続教育の実施にあたっては、適切な頻度とタイミングを見極め、従業員のライフステージに応じた内容を企業として提供することが重要です。
また運営管理機関などの専門家に外部委託することで、質の高い教育を効率的に実施できるでしょう。
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