企業型確定拠出年金の商品の選び方は、将来受け取る資産額を大きく左右します。
しかし、会社から商品一覧を渡されても「何を基準に選べばよいか分からない」と悩み、とりあえず元本確保型を選んでしまう方も多いのではないでしょうか。
本記事では、元本確保型と元本変動型の違いやコストの考え方、年代別の資産配分など、自身に合った商品を選ぶためのポイントを解説します。
企業型確定拠出年金の「商品選び」が将来を左右する理由

企業型確定拠出年金は、会社が掛金を拠出し、従業員が自ら運用商品を選んで運用する制度です。その運用の結果によって、将来受け取る年金資産額が変動する仕組みとなっています。
確定給付企業年金(DB)は、会社側で運用の責任を負い、従業員に対して将来の給付額を約束するものです。
一方、企業型確定拠出年金は、従業員が自ら金融商品を選んで運用するため、運用結果は選択した商品や市場環境の影響を受けます。
企業型確定拠出年金は、個々の従業員に対して金融リテラシーと意思決定を求めるものです。運用商品の選択は、単なる事務手続きの一つではなく、将来もらえる資金を決定づけるものになります。
運用成果について会社が補填する仕組みはないため、加入者一人ひとりが制度の仕組みを深く理解し、自分のライフプランに見合った商品を選択することが不可欠です。
また、企業型確定拠出年金の商品選びは、公的年金(国民年金・厚生年金)を補完するという観点からも重要性が増しています。
少子高齢化に伴う公的年金の給付水準低下が懸念される中、老後を安心して過ごすためには長期運用の視点に立った適切な商品選びが求められます。
なぜ「定期預金だけ」ではリスクなのか?
従業員の中には、企業型確定拠出年金で金融商品を選択する際に元本割れを回避したいという心理から「元本確保型商品(定期預金など)」のみを選択する傾向が多く見られます。
しかし、長期的な資産形成の視点では、定期預金だけの選択自体が長期的な視点ではリスクとなり得る点について、企業としてあらかじめ従業員に説明しておくことが重要です。
その主な要因は「インフレリスク(物価上昇リスク)」と「機会損失」にあります。
現在のような超低金利の環境下では預貯金の利回りはほぼゼロに近く、資産の額面金額は維持できても、実質的な価値を増やすことは困難です。
以下の表は、インフレが資産価値に与える影響をシミュレーションしたものです。
| 経過年数 | インフレ率 0% (現状維持) |
インフレ率 1% | インフレ率 2% (政府目標) |
|---|---|---|---|
| 現在 | 100万円 | - | - |
| 10年後 | 100万円 | 約90万円相当 | 約82万円相当 |
| 20年後 | 100万円 | 約82万円相当 | 約67万円相当 |
| 30年後 | 100万円 | 約74万円相当 | 約55万円相当 |
※ 実質価値の試算であり、将来の経済状況を保証するものではありません。
上表の通り、年2%のインフレが30年継続した場合、現在の100万円の実質価値は約55万円まで目減りする可能性があります。
つまり、額面上の元本を守ることに固執して定期預金のみを選択し続けることは、実質的な資産価値を減少させる「見えないリスク」を負っているのと同義であると言えるでしょう。
老後資金の準備においては、「減らさない」だけでなく、物価上昇に負けない程度に「増やす」視点を持つことが大切です。
まずは自社のラインアップを把握しよう
企業型確定拠出年金の商品選びは、自社が契約している運営管理機関が提供する商品ラインアップを把握することから始まります。
商品数は法令(確定拠出年金法)により、リスク・リターンの特性が異なる3つ以上の運用商品を用意することが義務付けられており、上限は35本と定められています。
そのため、最低でも3本以上の商品から従業員自ら選択することになります。
しかし、商品の種類や信託報酬(コスト)の水準、提供される投資信託の運用会社などは会社ごとに異なります。
従業員は、社内研修や運営管理機関から提供される資料、WEBサイトなどを通じて、自社にどのような選択肢があるかを確認することが商品選びのスタートラインとなります。
知っておきたい「元本確保型」と「元本変動型」の違いとリスクについての考え方

企業型確定拠出年金で選択可能な運用商品は、大きく「元本確保型」と「元本変動型」の2つに分類されます。
「資産を守るのか」それとも「リスクを取って増やそうとするのか」。両者は投資スタンスが異なるため、それぞれの特性を正しく理解しておく必要があります。
元本確保型(預貯金・保険)
元本確保型の商品は、満期時や解約時に原則として元本と所定の利息が保証される商品であり、主に銀行などが提供する「定期預金」と保険会社が提供する「保険商品」が該当します。
定期預金はペイオフ(預金保険制度)の対象であれば、金融機関が破綻しても元本1,000万円と利息までは保護されるため、資産保全の確実性が高い商品です。
ただし、低金利環境下では資産増殖効果が薄く、インフレリスクに弱いという側面があります。
一方、保険商品(積立傷害保険や年金保険など)は定期預金より若干高い利率が設定されることがありますが、満期前の商品入れ替え(スイッチング)や途中解約の際に「解約控除」等の手数料が引かれ、受取額が元本を下回る可能性がある点に注意が必要です。
元本確保型は心理的な安全性を提供しますが、運用期間が長い若年層や資産形成層にとっては資産が増えにくく、機会損失のリスクが高まる可能性があることも理解しておきましょう。
元本変動型(投資信託)
投資信託は、多数の投資家から資金を集めて運用の専門家が株式や債券などに投資し、成果を還元する実績配当型の商品です。
元本は保証されず、市場環境によっては資産評価額が投資元本を割り込む可能性がありますが、株式などを組み入れることで長期的には預貯金を上回るリターンが期待できます。
資産は信託銀行で分別管理されているため、関連する金融機関が破綻しても資産自体は保全される仕組みです。
また、個人では難しい世界中の会社への分散投資を少額から行えるほか、企業型確定拠出年金では運用益が非課税となるため、期待リターンの高い投資信託で運用するほうが節税効果を大きくできる利点もあります。
リスクについての考え方
企業型確定拠出年金は、会社主導ではなく加入者自身が運用商品を選択し、自らの判断でリスクを管理しなければなりません。
ここで言う「リスク」とは、単なる「損失」ではなく「リターンの振れ幅」を指します。
企業型確定拠出年金では、商品を選択する際にはリスクを自身の許容度に合わせてコントロールすることが求められます。
そのための基本となるのが「分散投資」と「積立投資」、「長期運用」です。
「分散投資」とは、資金を単一の商品に集中させず、値動きの異なる複数の資産(国内外の株式や債券など)に分けて組み合わせたり、一本化したバランス型ファンドやターゲットイヤー型ファンドを活用したりする手法です。
特定の資産が大きく下落した際のダメージを資産全体で吸収し、振れ幅を安定させることができます。
「積立投資」とは、一度にまとめて運用商品を購入するのではなく、定期的に一定の金額で継続して購入する手法です。
これにより、価格が高いときには少なく、低いときには多く購入することになり、長期的に見ると1口あたりの購入単価を平準化する効果が期待できます。
「いつ買えばいいか」というタイミングの判断に迷う必要がないのもメリットです。
一方「長期運用」は、数年から数十年といった長い期間にわたって金融商品を保有し続ける投資手法です。
市場は短期的には大きく変動しますが、10年・20年という長期視点で運用を継続することで、変動幅は平準化されて最終的には安定したリターンに落ち着いていく傾向があります。
原則60歳まで引き出しができない企業型確定拠出年金の特性は、目先の変動に一喜一憂せず、「時間」を味方につけてじっくりと資産を育てるために有利な仕組みと言えます。
商品選定でチェックすべき「重要指標」

数ある投資信託の中から自分に適した商品を選ぶためには、目論見書などの資料を確認し、比較検討することが重要です。
ここでは、その際にチェックすべき3つの主要な指標について解説します。
信託報酬(コスト)
信託報酬(コスト)とは、保有期間中に資産残高から自動的に差し引かれ続ける運用管理費用のことです。
コストは確実に発生するため、長期運用ではわずかな料率の差でも最終的な受取額に大きな影響を与えます。
一般的に企業型確定拠出年金向けの商品は低コストの傾向にありますが、それでも商品間で開きがあるため注意が必要です。
特にインデックスファンドの場合は、連動する指数が同じであれば運用成績に大差はないため、信託報酬がより低い商品を選ぶこともチェックすべき指標となります。
アセットクラス(資産クラス)
アセットクラスとは、国内・外国の株式や債券、REIT(不動産投信)といった投資対象の分類のことです。
これらをどう組み合わせるか(アセットアロケーション)が運用のリスクとリターンを決定づける要素となります。
一般的に債券はリスクが低く安定しやすい一方、株式はリスクが高いものの資産を大きく増やす可能性があります。
また、海外の資産の場合は、円高・円安といった為替の影響も受けます。自身のリスク許容度に合わせて適切に組み合わせることが商品選びのポイントとなります。
運用手法
投資信託の運用スタイルは、主に「インデックス運用(パッシブ運用)」と「アクティブ運用」の2つに分類されます。
「インデックス運用(パッシブ運用)」は、特定の市場指数への連動を目指す手法で、コストを抑えながら市場全体の成長を取り込みたい場合に適しています。
一方で、アクティブ運用は独自の調査分析により市場平均を上回る成果を目指す手法ですが、調査コストがかかるため信託報酬は高くなる傾向にあります。
アクティブ運用は高いリターンを狙える可能性がある一方で、コスト控除後の成果がインデックス運用を下回るリスクがある点には留意が必要です。
【年代・タイプ別】資産配分(ポートフォリオ)モデルの例
資産配分(ポートフォリオ)に正解はありませんが、一般的には「年齢(運用期間の長さ)」と「リスク許容度」が基準となります。
若年期はこれから得られる収入が多く見込めること、相場が下落した場合でも回復を待つ時間的ゆとりがあることなどから、多少リスクのある運用にも挑戦しやすいと考えられています。
一方、年齢を重ねるにつれて将来の収入は限られてくること、相場が悪化した場合は損失を確定せざるを得ない可能性があることから、金融資産はより安全性の高いものへ移していくのが一般的です。
ここからは資産配分(ポートフォリオ)のモデルの一例を紹介します。
ただし、ここで紹介するモデルはあくまで一例であり、特定の配分を推奨・保証するものではありません。最終的には、従業員それぞれの家計状況やリスク許容度に応じて行われるものです。
20~30代の例
20代から30代は、定年退職までに30年以上の運用期間があります。
時間を味方につけ、株式比率を高める積極的な運用の方が資産を増やす期待を持てます。
■ 運用方針
株式比率を高め、世界経済の成長を積極的に取り込む
■ ポートフォリオ例
- 外国株式:50%
- 国内株式:30%
- 外国債券:10%
- 国内債券:10%
20代~30代は、運用資産額自体がまだ少ないことが多いため、仮に評価額が20%下落しても、金額ベースの損失は限定的と言えるでしょう。
むしろ、積立投資においては価格下落時に多くの口数を購入(ドル・コスト平均法)できるため、相場変動をチャンスに変えることができる時期でもあります。
積極的にリスクを取り、期待リターンの高い株式中心のポートフォリオを組むこともできます。
40~50代の例
40代から50代に入ると、退職が視野に入ってきます。
また、教育費や住宅ローンなどの支出ピークと重なる時期でもあり、資産を大きく減らすことのないように、徐々に債券や預金を増やす「安定運用」へシフトする意識を持ちましょう。
■ 運用方針
株式の比率を下げ、債券や元本確保型商品を組み入れてポートフォリオ全体の変動幅を抑える
■ ポートフォリオ例
- 国内債券:50%
- 外国債券:20%
- 国内株式:20%
- 外国株式:10%
受け取り時期(60歳から75歳までの間)が近づくにつれ、リーマンショック級の暴落が起きた際に回復を待つ時間がなくなります。
そのため、株式などのリスク資産は時期を見て利益確定をするなどして安全資産へ移し替えることで、老後資金を守る戦略が有効となります。
※上記はあくまでポートフォリオの一例として示したものであり、特定の商品を推奨するものではありません。
※ 上記は将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
選んで終わりではない!定期的なモニタリングと見直し

企業型確定拠出年金は「商品を選んで終わり」ではありません。
経済環境の変化や従業員のライフステージの変化に伴い定期的に運用の状況を確認し、必要に応じて軌道修正を行うことが不可欠です。
もし軌道修正を怠ると、気づかないうちに想定以上のリスクを負っていたり、目標額に到達できなくなる可能性があります。
ここでは、企業として従業員に案内すべき、定期的なモニタリングと見直しのポイントについて解説します。
運用状況をチェックすべきポイントを解説
運用状況をチェックするポイントは、年に1回運営管理機関から送付される「お取引状況のお知らせ」や加入者専用WEBサイトで以下のポイントを確認するよう企業として促すことが重要です。
資産残高
拠出した掛金総額に対し、現在の資産評価額がいくらになっているかを確認します。
プラスであれば順調ですが、マイナスの場合はその要因(市場全体の下落か、特定商品の不調か)を確認するとよいでしょう。
資産配分比率
当初設定した配分比率が、値動きによって崩れていないかを確認します。
例えば、当初株式50%・債券50%で運用を始めた場合でも、株価が上昇すると株式の比率が60%、70%と高まり、結果としてポートフォリオ全体のリスクが大きくなっていることがあります。
運用実績
自分が選んだ商品が、どのような成績かを確認します。
市場全体が上昇しているのに自分の商品だけ上がっていない場合は、運用商品の変更を検討する余地があることを示しています。
資産配分のズレを直す「配分変更」とは
「配分変更」とは、毎月積み立てる掛金で購入する商品の種類や割合を変更することです。
例えば、定期預金中心だった配分を投資信託へ切り替えたい場合や、年齢に応じて今後の積立分を安全資産の比率を高めたい場合などに行われます。
配分変更には手数料がかかりませんが、ポートフォリオ全体の配分を変えるには時間を要します。
商品の入れ替え「スイッチング」とは
「スイッチング」とは、すでに保有している運用商品の一部または全部を売却し、その資金で別の商品を買い直す手続きです。
例えば、相場の変動により想定していたポートフォリオが崩れてしまった際に、値上がりして比率が高まった資産を売却して比率が低くなってしまった資産を買い直す「リバランス(資産再配分)」を行う場合や、退職を控えてリスク商品を定期預金に移し替える場合などに行われます。
ただし、売却と購入の間にはタイムラグが生じて市場変動の影響を受ける点や、商品によっては解約時に手数料がかかる場合もあるため企業としても事前確認の重要性を周知しておくことが必要です。
まとめ
企業型確定拠出年金の商品選びは、将来の資産形成を左右する重要なものになります。
「よく分からないから元本確保型」を選ぶのではなく、企業としてリスクとリターンのバランスを踏まえた考え方を示し、従業員が自身の年代やライフプランに最適なポートフォリオを構築できるよう支援することが重要です。
また、運用環境の変化に応じた定期的な見直しについても、企業として適切に案内していく必要があります。
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