社会福祉法人に勤務する職員にとって、退職金がいつもらえるのかは重要な関心事です。多くの社会福祉法人が「福祉医療機構(WAM)の退職手当共済制度」に加入しており、この規定に基づいて退職金が支給されます。
さらに、社会福祉法人によっては、福利厚生を強化するために企業型DC(確定拠出年金)を導入しています。このように、複数の退職金制度を導入し、対象となる職員を分けているケースも少なくありません。
本記事では、社会福祉法人の退職金制度の全体像や、経営者として共済制度を戦略的に使い分ける方法について解説します。多様な働き方に対応した退職金制度を設計し、人材確保と定着を実現させましょう。
社会福祉法人の退職金、いつ・どうやってもらえる?

社会福祉法人に勤務している職員の退職金は、多くの場合「福祉医療機構(WAM)の退職手当共済制度」を通じて支給されます。
WAMの退職手当共済制度とは、社会福祉施設の職員を対象とした全国規模の共済制度です。職員が退職した際に一時金で支払われる仕組みで、多くの社会福祉法人が利用しています。
WAMの退職手当共済制度では、社会福祉法人が毎月、職員一人あたり一定の掛金を納付します。退職手当は、職員が退職する際に勤続年数と給料月額に基づいて計算されます。
支給時期は退職後約2~3ヶ月後となっており、職員がWAMから直接受け取る形となります。
法人単位で加入する任意制度です。法人が福祉医療機構に申し込み、承認を受けると施設全体の職員が包括的に加入します。
法人が施設区分や職員数に応じて定められた掛金を毎年度納するため、職員本人の金銭的な負担はありません。
勤続年数が1年以上であれば退職手当の対象となり、勤続年数が長いほど支給額が増加する仕組みです。ただし、自己都合退職の場合は勤続3年未満だと減額されるため、長期勤続を促進する制度設計となっています。
従来型の退職金制度に加える「企業型DC」という考え方
社会福祉法人が導入できる退職金制度は、WAMの退職手当共済制度だけではありません。複数の退職金制度を導入し、対象となる職員を分けて提供する「戦略的な使い分け」も可能です。
社会福祉法人から注目されている制度が、企業型DC(企業型確定拠出年金)です。企業型DCがどのような制度なのか、詳しく解説します。
企業型DCの基本的な仕組み
企業型DCは、法人が職員のために掛金を拠出し、職員自身が運用商品を選択して資産形成を行う制度です。職員(加入者)が自分の責任で運用するため、従来の退職金制度とは異なる特徴を持っています。
最大の特徴は、運用結果によって将来の給付額が変動する点です。職員は投資信託や定期預金などの運用商品を選択し、その成果が将来の年金額に直結します。
このため、「自己責任による資産形成」という側面が強く、職員には一定の金融リテラシーが求められます。
また、転職時には積み立てた資産を持ち運べる「ポータビリティ」がある点も特徴です。転職先に企業型DCがない場合でも、個人型確定拠出年金(iDeCo)に資産を移換できるため、職員にとって転職時のデメリットが少ない制度と言えます。
企業型DCの掛金は、法人側では損金算入できるため、節税効果につながります。一方、職員にとっては給与所得として課税されません。
さらに、運用益も非課税で、給付時には退職所得控除や公的年金等控除の対象となります。
制度の併用における注意点
WAMの退職手当共済制度は全従業員加入が原則となっており、「一部のみ加入」「任意加入」や「個人選択制」は認められていません。
WAMの退職手当共済制度と企業型DCを併用する場合でも、同一職員の重複加入は原則として認められません。両方に同時加入することはできないため、対象者を明確に区分する必要があります。
労働基準法上の退職金支給義務についても確認が必要です。就業規則で退職金の支給を定めている場合、制度変更時には既存職員の既得権益を保護する措置が求められます。
制度導入にあたっては、不利益変更にならないよう、十分な配慮と職員への丁寧な説明が不可欠です。
また、複数の退職金制度を運用することにより、掛金の管理や職員への説明などが発生します。事務負担が増加し、人事労務業務が複雑化する点にも注意が必要です。
WAMの退職金制度と企業型DCの違い
両制度の特徴を正しく理解するために、その主要な違いを比較してみましょう。
| 項目 | WAMの退職手当共済制度 | 企業型DC |
|---|---|---|
| 財源・運用 | 掛金+公的補助で賦課方式運用し、退職時に機構が直接支給する | 掛金を企業(場合によって従業員も)が拠出し、各従業員が自身の責任で運用する |
| 給付方法 | 退職時に一時金として支給 | 原則60歳以降に運用資産を年金または一時金で受け取り |
| 給付額 | 制度所定の算定式 | 積立・投資結果により受取額が変動する |
| 運用リスク | 職員本人はリスクを負わない | 従業員が負う |
| 資産ポータビリティ | 不可能 | 可能 |
WAMの退職手当共済制度は、施設区分と職員数に応じて掛金が定められており、法人の裁量は限定的です。
勤続年数と給料月額に基づいて給付額が確定する「確定給付型」であるため、職員にとっては将来の給付額が予測しやすく、安心感があります。
一方で、企業型DCでは法人が掛金額を設定でき、職員の職種や責任に応じて柔軟に調整できます。運用結果によって給付額が変動する「確定拠出型」で、市場の変動リスクを職員が負担します。
事業主側からすると、掛金の支払い義務が果たされれば、それ以降の運用結果に関する経済的責任はありません。
転職時の取り扱いでは、両制度に大きな違いがあります。WAMの退職手当共済制度は退職時に一時金として支給され、転職先への持ち運びはできません(ただし、加入施設間であれば、転職や復職時も掛金納付期間を通算できます)。
しかし、企業型DCでは積み立てた資産を転職先の企業年金制度やiDeCoに移換でき、資産の継続的な運用が可能です。
共済制度と企業型DCを使い分けるメリット

両制度を使い分けることは、社会福祉法人の経営者にさまざまなメリットをもたらします。例えば、多様な人材確保とコスト管理の最適化を同時に実現できます。
従来は全職員に一律の退職金制度を適用するのが一般的でしたが、働き方の多様化により、職員のニーズもさまざまになっています。
制度の使い分けによって、それぞれの職員に最適な退職給付制度を提供でき、人材確保における競争優位性を獲得できるでしょう。
人材確保・人材定着につながる
若い世代の職員には、転職を前提とした働き方を希望する人が増えており、ポータビリティ機能のある企業型DCが魅力的に映る可能性があります。
資産を自由に持ち運べる企業型DCは柔軟性に富んでおり、メリットを感じやすいでしょう。
一方、長期勤続を前提とする職員には、勤続年数に応じて確実に給付額が増加するWAMの退職手当共済制度のほうが安心感を与えられます。
介護の現場で専門性を高めながら長く働きたい職員にとって、予測可能な退職金制度は安心材料となります。
コスト管理がしやすくなる
WAMの退職手当共済制度は毎月固定の掛金で運営できるため、予算管理が容易です。長期的な人件費の見通しも立てやすく、安定した経営計画の策定を可能にします。
企業型DCは掛金額を法人が設定できるため、職員の職種や責任に応じて柔軟に調整できます。管理職や専門職には手厚い拠出を行い、一般職員には標準的な拠出を行うなど、メリハリのある処遇体系を構築し、効率的なコスト管理を実現できます。
また、企業型DCでは職員の離職時に未消化の掛金が発生しません。掛金を拠出することで法人としての責任が完了するため、経済的リスクが小さいというメリットもあります。
リスクを分散できる
複数の退職金制度を併用することで、法人としてのリスク分散効果も期待できます。WAM共済制度は外部機関が運営するため、法人の財務状況に左右されない安定性があります。
一方、企業型DCでは法人が掛金の運用を直接管理できるため、経営状況に応じた柔軟な運用が可能です。掛金の変更は原則として年1回可能とする運用が一般的で、規約やプランによって変更できます。
企業型DCの税制優遇を活かせる
企業型DCを導入することで、法人と職員の双方が税制優遇を受けられます。
法人側では、拠出する掛金を全額損金算入できるため、法人税の負担軽減につながります。
職員側では、非課税で運用できるメリットがあります。運用期間中の運用益は非課税で再投資されるため、複利効果を活かした効率的な資産形成が可能です。
受取時にも、一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用されるため、所得税や住民税の軽減効果があります。
このように、WAMの退職手当共済制度にはない税制優遇制度を活かせる点は、共済制度と企業型DCを使い分ける大きなメリットです。
共済制度と企業型DCを使い分ける例

WAM共済制度と企業型DCを実際に導入し、使い分ける際には、事業部門や職種の特性に応じた制度設計が効果的です。ただし、就業規則や退職金規程で対象者を明確に分ける必要があります。
職種別の使い分け
「介護事業部門の職員はWAMの退職手当共済制度」「本部事務局や新規事業部門の職員は企業型DC」のように、職種の特性に応じて制度を使い分ける方法もあります。
職種区分を設ける際は、客観的で合理的な基準が必要です。職務内容の専門性や求められるスキルの性質などを総合的に判断し、なぜその職種にはその制度が適しているのかを明確にすることが重要です。
また、職種変更時の取り扱いについても事前に規程で定めておきます。介護職員から事務職員に異動した場合の制度移行手続きや、移行時の既存積立金の処理方法などを明文化することで、円滑な運用が可能になります。
選択制企業型DCの導入
選択制企業型DCとは、職員が自分の意思で企業型DCへの加入を選択できる制度です。従来の一律適用とは異なり、職員一人ひとりが自身のライフプランや価値観に応じて、加入の是非を決められます。
この制度の最大のメリットは、職員の多様なニーズに対応できる柔軟性です。資産運用に関心が高く、積極的に投資を行いたい職員は加入を検討すればよいでしょう。
選択制の場合、労使間のトラブルを回避できるメリットもあります。制度変更による不利益を感じる職員は従来制度を継続選択でき、新制度に魅力を感じる職員のみが移行するため、職員満足度の向上と人材定着を実現できるでしょう。
なお、SBIベネフィット・システムズでは任意加入の選択制企業型DC「SBIダイレクトプラン」を提供しています。
規程を整備するときの注意点
制度の使い分けを行う際には、就業規則や退職金規程において、対象者の区分基準を明確に定める必要があります。職種・勤務地・勤務施設などの客観的な基準を設け、恣意的な運用を避けることが重要です。
さらに、職員への説明責任も重要です。なぜそのような区分を設けるのか、それぞれの制度の特徴やメリット・デメリットを職員に十分に説明し、理解を得ることが制度の成功につながります。
定期的な制度の見直しも必要です。事業環境の変化や職員のニーズの変化に応じて、制度区分の妥当性を検証し、必要に応じて調整を行いましょう。
まとめ
退職金制度を使い分け、施設の実情に応じて設計することは、福利厚生の充実化につながります。これにより、金銭的なインセンティブを用意し、多様な人材を確保しながら、職員が安心して活躍できる環境を整備できるでしょう。
働き方が多様化している現代では、企業側も時代の流れに対応する必要があります。
全職員に一律の制度を提供する時代は終わり、職員のニーズに合わせて制度を戦略的に設計する時代へと変化しています。この現状を踏まえ、競争力を維持するための対策を進めましょう。
社会福祉法人の場合、WAMの退職手当共済制度を基本としつつ、企業型DCを組み合わせる方法があります。
両制度を使い分けることで、限られた予算内で最大限の福利厚生効果を実現し、職員満足度の向上と経営の安定化を同時に達成できるでしょう。
企業型DCを導入する際には、就業規則の整備や労使合意の形成、厚生局への申請などが必要となります。
複雑な手続きや運用についてご不安な方は、SBIベネフィット・システムズが提供する、はじめて企業型DCを導入する事業主向けのガイドブックをぜひご活用ください。
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