近年、老後資金を形成する手段として、自身で運用できるiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型確定拠出年金(企業型DC)が注目されています。
資産形成を進めている方のなかには「制度の併用でより効率的に資産形成できないか」と考える方も多いのではないでしょうか。
結論として、iDeCoと企業型DCの併用は可能です。 2020年や2024年の法改正により、制度の柔軟性が年々高まり、これまで併用が難しかった多くの方でも利用しやすくなりました。ただし、掛金の上限や加入条件、手続きのタイミングなど、事前に把握しておくべきポイントもあります。
本記事では、iDeCoと企業型DCを併用するための条件や、制度改正のポイント、併用するメリットと注意点をわかりやすく解説します。老後資産を効率的に増やしたい方は、ぜひ参考にしてください。
iDeCoと企業型確定拠出年金の併用はできる
結論から言うと、iDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型確定拠出年金(企業型DC)は制度上、併用が可能です。
2024年の法改正により、企業年金加入者の掛金上限額が引き上げられるなど、より柔軟に制度を活用できるようになりました。両制度を併用することで、税制優遇のメリットを最大限に活かしながら、老後資産を充実させることができます。
ただし、掛金の上限や併用の可否、必要な手続きなどを正しく理解していないと、意図せず損をする可能性もあります。制度の仕組みやルールをしっかり確認したうえで活用することが大切です。
iDeCoとは

iDeCo(イデコ)とは「個人型確定拠出年金」の愛称で、個人が任意で加入する私的年金制度です。
公的年金(国民年金・厚生年金)に上乗せする形で自身で掛金を拠出し、運用商品を選んで老後資金を積み立てます。
iDeCoの最大の魅力は、税制上の大きな優遇措置がある点です。具体的には、以下の3つのタイミングで税金の負担が軽減されます。
- 掛金の拠出時:毎月の掛金が全額「所得控除」の対象となり、その年の所得税と翌年度(6月~翌年5月)の住民税が軽減されます
- 運用時:通常、投資で得た利益(運用益)に約20%課税されますが、iDeCoの運用益は非課税です
- 受取時:60歳以降に年金または一時金として受け取る際に、「公的年金等控除」や「退職所得控除」が適用され、税負担が軽くなります
ただし、iDeCoで積み立てた資産は、原則60歳までは引き出せません。あくまでも老後の資金準備を目的とした制度であるため、中長期的な視点で資産形成に取り組む方に適しています。
企業型確定拠出年金(DC)とは

企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が従業員の退職金や年金のために導入する私的年金制度です。
企業が従業員のために毎月掛金を拠出し、従業員はその資金を自ら運用して将来の資産を形成します。
企業型DCの掛金は企業が負担するため非課税となり、従業員は自己負担なく老後資金を積み立てられるのが特徴です。企業によっては、会社の掛金に加えて従業員自身が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」を採用しているケースもあります。iDeCoや企業型DCにおける「マッチング拠出」で従業員が拠出した掛金は、全額がその年の所得から控除されるため、税制面でのメリットを享受できます。
これらの点から、iDeCoが「個人で加入する制度」であるのに対し、企業型DCは「企業が福利厚生の一環として提供する制度」である点が大きな違いと言えます。
【2024年法改正】iDeCo・企業型確定拠出年金(DC)への影響

近年、iDeCoや企業型DCを取り巻く制度は、より多くの人が使いやすくなるように段階的に法改正が進んでいます。
2024年12月には「2025年度の税制改正大綱」が閣議決定され、iDeCo・企業型DCの内容が大きく見直されました。
主に以下の3つが変更され、より柔軟な資産形成が可能になると期待されています。
- 掛金拠出限度額の引き上げ
- iDeCo加入可能年齢の上限引き上げ
- マッチング拠出の制限を撤廃
それぞれの改正点について、詳しく解説します。
掛金拠出限度額の引き上げ
2025年度の税制改正により、iDeCoの掛金拠出限度額が引き上げられ、より多くの資金を非課税で積み立てられるようになります。
例えば、企業で厚生年金に加入している会社員(第2号被保険者)は、iDeCoと企業型DCを合わせて月額最大6万2,000円まで拠出可能です。さらに、これまで企業年金(DC・DB)に加入していなかった会社員の方は、iDeCoの上限額が月額2万3,000円から6万2,000円へと大幅に引き上げられます。
フリーランスなどの第1号被保険者も、上限額が月額6万8,000円から7万5,000円へと増額され、より多くの資金を老後に備えて積み立てられるようになります。
なお、専業主婦(夫)など第3号被保険者については、掛金の上限額に変更はありません。
出典:厚生労働省「令和7年度 税制改革の概要(厚生労働省関係)」
iDeCo加入可能年齢の上限引き上げ
iDeCoに加入できる年齢の上限が、これまでの「65歳未満」から「70歳未満」へと引き上げられます。
また、60歳以上70歳未満でiDeCoに加入できなかった方のうち、以下のいずれかに該当する方はiDeCoへの加入が可能になります。
- 以前にiDeCoの「加入者」または「運用指図者」だった方
- 私的年金の資産をiDeCoへ移換できる方
こうした見直しにより、「人生100年時代」にふさわしい長期的な資産形成を支援する制度環境が整備されつつあります。
マッチング拠出の制限を撤廃
企業型DCにおける「マッチング拠出」も、大きく制度が緩和されます。
これまでは、従業員が拠出できる掛金の上限が「会社の拠出額以内」に制限されていました。今回の改正によりこの制限が撤廃され、会社の拠出額を超えて従業員がより多くの掛金を上乗せすることが可能になります。
従業員は自身の裁量でより自由に拠出額を増やせるため、積極的に資産形成に取り組めるようになります。
iDeCoと企業型確定拠出年金を併用するメリット

iDeCoと企業型DCの併用は、老後資金をより効率的に準備するための大きなメリットが3つあります。
- 節税効果が期待できる
- 資産運用の幅が広がる
- 拠出限度額まで掛金を支払える
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
節税効果が期待できる
iDeCoと企業型DCを併用する最大のメリットは、掛金が全額所得控除の対象となることによる、強力な節税効果です。
企業型DCの掛金は企業が負担するため非課税となりますが、iDeCoや企業型DCにおける「マッチング拠出」で従業員が拠出した掛金は、全額がその年の所得から控除されます。
例えば、課税所得が400万円の方がiDeCoで月額2万円(年間24万円)を拠出した場合、所得税・住民税を合わせて年間約3.6万円の節税が可能です。
さらに、iDeCoや企業型DCで得た運用益(分配金・譲渡益)はすべて非課税です。加えて、60歳以降に資産を受け取る際も「退職所得控除」や「公的年金等控除」などが適用され、受け取り時の税負担も軽減されます。
参考:iDeCo公式サイト「かんたん税制優遇シミュレーション」
資産運用の幅が広がる
iDeCoと企業型DCを併用することで、資産運用の選択肢が広がるというメリットもあります。
企業型DCでは、運用商品は企業が選定した運営管理機関(金融機関)によってあらかじめ決められており、加入者が希望する商品が含まれていない場合もあります。一方でiDeCoは自分の意思で運営管理機関を選べるため、低コストのインデックスファンドが豊富な金融機関や、サポート体制が手厚い機関など、自分に合った投資環境を整えることができます。
企業型DCで安定的な運用を行いながら、iDeCoでは積極的なリターンを目指すなど、目的やリスク許容度に応じて運用スタイルを分けられる点も魅力です。
拠出限度額まで掛金を支払える
iDeCoと企業型DCを併用することで、確定拠出年金制度における掛金拠出の上限額を最大限に活用できる点もメリットと言えます。
確定拠出年金制度では、制度上加入者の状況に応じて掛金の上限が設定されています。例えば、企業型DCのみを利用している会社員の場合、改正前の掛金上限は月額5万5,000円です。企業が拠出する掛金が上限に達していない場合、不足分をiDeCoで補えます。会社の掛金が3万5,000円であれば、iDeCoで月額2万円まで拠出でき、合計で上限の5万5,000円をフル活用することができます。
企業の制度だけでは資産形成に不安があるという方も、iDeCoを組み合わせることで、より多くの非課税枠を使って将来のための資金を準備できるのです。
出典:厚生労働省「令和4(2022)年10月から企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります」
iDeCoと企業型確定拠出年金を併用する際の注意点

iDeCoと企業型DCを併用することには多くのメリットがありますが、いくつか知っておくべき注意点も存在します。
自身の加入状況や勤務先の制度を確認したうえで、以下の注意点に留意しながら制度を活用しましょう。
- 企業型DCでマッチング拠出を利用している場合は併用できない
- iDeCoを利用する際は年末調整が必要
- 転職先で企業型DCに加入するなら手続きが必要
それぞれの注意点について、詳しく解説します。
企業型確定拠出年金でマッチング拠出を利用している場合は併用できない
企業型DCですでにマッチング拠出を利用している場合、iDeCoとの併用はできません。
マッチング拠出もiDeCoも、従業員自身が掛金を拠出し、その金額が全額所得控除の対象となる点で税制優遇の仕組みが重複しています。制度上、この2つの優遇措置を同時に受けることは認められていないため、どちらか一方を選択する必要があります。
どちらを選ぶべきかは、勤務先の掛金額や運用商品の選択肢、自身の資産運用スタイルなどによって異なります。
例えば、iDeCoでしか扱っていない商品を利用したい場合はiDeCoを、手間なくひとつの口座で管理したい方はマッチング拠出を選ぶといったように、自分にとって有利な制度を選びましょう。
iDeCoを利用する際は年末調整が必要
iDeCoの掛金は、原則従業員自身の給与や口座から引き落とされます。そのため、掛金を所得控除に反映するには、年末調整や確定申告での申請が必要です。
会社員や公務員の方には、毎年10~11月頃、国民年金基金連合会から「小規模企業共済等掛金払込証明書」が届きます。これを年末調整時に会社へ提出することで、税制優遇を受けられます。提出を忘れると節税メリットを受けられなくなるため、証明書の保管と提出のタイミングには注意が必要です。
もし年末調整に間に合わなかった場合でも、翌年3月15日までに自分で確定申告を行えば税金の還付を受けることができます。
なお、企業が掛金を給与から天引きしている場合は、年末調整に反映済みである可能性があり、その場合は従業員による手続きは不要です。
転職先で企業型確定拠出年金に加入するなら手続きが必要
転職や再就職により、企業型DCを導入している企業に入社した場合は、いくつかの重要な手続きが発生します。
これまで厚生年金に加入していた方が企業型DCのある企業へ転職した場合は、加入の届出を運営管理機関へ提出する必要があります。これは、自営業や学生だった方が就職した場合も同様です。
また、転職を機に、それまで個人で積み立てていたiDeCo資産を企業型DCに移換することも可能です。
特に注意が必要なのは、前職で企業型DCに加入していた方です。転職により加入資格を失った場合、資格喪失の翌月から6ヶ月以内に資産を移換する必要があります。この期間内に手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会に自動的に移換され(自動移換)、運用が停止されてしまうほか、管理手数料が差し引かれ続けるため注意が必要です。
確実に手続きを行い、大切な資産を正しく運用し続けましょう。
まとめ
iDeCoと企業型DCは、税制優遇を活かして老後資金を準備できる強力な私的年金制度です。近年の法改正により、両制度の併用がしやすくなり、より多くの人が柔軟に資産形成に取り組める環境が整いました。
ただし、マッチング拠出との併用ができないことや、年末調整などの手続きが必要といった注意点もあるため、制度の詳細を正しく理解することが大切です。
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