従業員の老後資金形成を支援する制度として、企業型確定拠出年金(企業型DC)が注目されています。
企業型DCに加入している従業員は、会社の掛金に加えて、ご自身の意思で掛金を追加することが可能です。そのおもな方法が、企業型DCの制度内で掛金を上乗せする「マッチング拠出」と、個人で加入する「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。
これらは自身で掛金を拠出して老後資金を準備するという点で共通していますが、「マッチング拠出とiDeCoは併用できる?」「どちらを選べば節税効果が高い?」といった違いについて、疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そのような方に向けて、それぞれの仕組みやメリット・デメリットを比較し、分かりやすく解説します。会社員の方はもちろん、経営者の方にとっても有用な内容となっているため、ぜひ参考にしてください。
マッチング拠出とは?企業型DCの追加拠出制度

マッチング拠出とは、企業型確定拠出年金(企業型DC)において企業が拠出する掛金に加えて、従業員自身が任意で掛金を拠出できる制度です。
この制度は従業員の自律的な資産形成を支援する目的で、2012年1月の確定拠出年金法の改正によって導入されました。企業型年金規約に定めることで導入が可能となり、利用するかどうかは加入者が選択できます。
従来のルールでは、従業員が拠出できる掛金は「企業が拠出する掛金(事業主掛金)と同額まで」とされていました。また、企業掛金と従業員掛金(マッチング拠出)の合計額は、法令で定められた上限(月額55,000円、確定給付企業年金などを併用している場合は月額27,500円)の範囲内でした。
しかし、2025年6月に公布された年金制度改正法により、「従業員の掛金は企業掛金と同額まで」という制限が撤廃される予定です。制限撤廃は公布より3年以内に実施される予定ですが、2026年6月時点で具体的な施行日は決まっていません。施行後は、マッチング拠出を利用している従業員は企業掛金の額にかかわらず、より多くの掛金を拠出できるようになります。
具体的には、企業型DC単体で月額62,000円、確定給付企業年金(DB)を併用している場合は月額27,500円を基本に、他制度の掛金相当額を控除した額が上限となります。なお、マッチング拠出を利用している場合はiDeCoと併用できないため、いずれか一方を選択する必要があります。
| 改正前 | 改正後(施行後) | |
|---|---|---|
| 従業員の掛金 | 企業の掛金(事業主掛金)と同額まで | 企業の掛金額による制限は撤廃 |
| 掛金の上限額 (企業型DC単体) |
月額55,000円 | 月額62,000円 |
| 掛金の合計上限額 (他の企業年金との併用時) |
月額27,500円 | 他制度の掛金相当額を控除した額 |
| iDeCoとの併用 | 不可 | 不可 |
マッチング拠出のメリット
掛金は全額控除対象
マッチング拠出のメリットの1つが、税制優遇効果です。マッチング拠出の掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になるため、所得税と翌年の住民税が軽減され、手元に残るお金が増えることになります。
例えば、課税所得が300万円で所得税率10%・住民税率10%の従業員が月に1万円(年間12万円)を拠出した場合、年間で約24,000円の節税が可能です。さらに、マッチング拠出の運用で生じた利益は非課税となるため、効率良く老後資産を形成できます。
新たな口座開設や手間が不要
マッチング拠出は、現在加入している企業型DCの運営管理機関をそのまま利用できるため、手続きの負担が軽い点もメリットです。iDeCoのように新たな運営管理金融機関を選んだり、別途口座を開設したりする手間がありません。既存の企業型DCの運用管理体制のなかで、手軽に追加拠出を始められます。
運用商品の選択肢は企業型DCのラインナップに限定されますが、すでに慣れ親しんだ商品で資産形成を進められる安心感もあります。
マッチング拠出のデメリット
掛金の額に制限がある
従来、マッチング拠出で従業員が追加できる掛金の額は、「企業が拠出する掛金(事業主掛金)と同額まで」という制限がありました。例えば事業主掛金が月5,000円の場合、従業員がマッチング拠出できるのは最大5,000円までです。この制限は、マッチング拠出の大きなデメリットとなっていました。
しかし2025年度の年金制度改正法により、この「企業掛金と同額まで」という制限は撤廃される予定です。マッチング拠出を利用している従業員は、今よりも掛金を増額できる可能性が高まり、より柔軟な資産形成が可能になります。
すべての企業型DCで利用できるわけではない
マッチング拠出は、すべての企業型DCで利用できるわけではありません。企業が企業年金規約に明記し、厚生労働省の承認を得ていることが条件です。そのため、導入の有無については企業の担当部署に確認する必要があります。
原則60歳まで引き出し不可
確定拠出年金制度共通の注意点として、「原則60歳まで引き出し不可」という点も挙げられます。これは、確定拠出年金が老後資金形成を目的とした制度であるためです。住宅ローン返済や教育資金など、当面の支出に備えるべき資金は手元に残したうえで、余剰の資金をマッチング拠出に回しましょう。
iDeCoとは?個人型確定拠出年金

iDeCoとは、国民年金や厚生年金などの公的年金とは別に、自ら掛金を拠出して運用する私的年金制度です。加入は任意で、個人で運営管理機関と運用商品を選択して資産形成を行います。企業型確定拠出年金(企業型DC)と同様に、拠出された掛金と運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する仕組みです。
iDeCoの掛金上限額は、加入者の区分(会社員、公務員、自営業者など)や、他の企業年金制度の加入状況によって異なります。例えば、企業年金に加入していない会社員の場合、現在の掛金上限額は月額23,000円です。
iDeCoは、企業型DCに加入している会社員でも加入できる場合があります。かつては企業年金規約で定められている必要がありましたが、2022年10月の確定拠出年金法改正により、規約に定めることなく併用できるようになりました。
ただし、企業型DCでマッチング拠出を利用している場合は、iDeCoとの併用ができません。この点については、後ほど詳しく説明します。
iDeCoに関する最近の法改正も注視しておく必要があります。2024年12月1日より、確定給付企業年金(DB)など他の企業年金制度に加入している会社員や公務員の方のiDeCoの拠出限度額が見直されました。従来の月額12,000円から最大月額20,000円に引き上げられ、企業型DCの掛金額と他制度の掛金相当額を合算して月額55,000円が上限となります。
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 掛金の上限額 (企業年金なし) |
月額23,000円 | 月額23,000円 |
| 掛金の合計上限額 (他の企業年金との併用時) |
月額12,000円 | 最大月額20,000円 |
| 掛金の合計上限額 (企業型DCとの併用時) |
明確な規定なし | 月額55,000円 (企業型DC掛金+他制度+iDeCoの合計) |
| マッチング拠出との併用 | 不可 | 不可 |
iDeCo(個人型確定拠出年金)のメリット
掛金は全額控除対象
マッチング拠出と同様に、iDeCoで拠出した掛金は全額が所得控除の対象です。そのため、所得税・住民税が軽減されます。
iDeCoの運用で得られた利益(運用益)が非課税なのもメリットです。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、iDeCoではこの税金がかからないため、効率的に資産を増やせます。また、老後に年金として受け取る際は「公的年金等控除」、一時金として受け取る際は「退職所得控除」が適用されるなど、税制優遇措置が受けられます。
- 拠出時:掛金が全額、所得控除の対象になる
- 運用時:運用で得た利益(運用益)が全額非課税になる
- 受取時:一時金なら「退職所得控除」、年金なら「公的年金等控除」で税負担が軽減される
長期的に運用できる
原則60歳まで引き出せないことで自然と長期運用ができ、利益は自動で再投資されるため、資産が雪だるま式に増えていく「複利効果」を享受できるのもメリットと言えるでしょう。
運用益非課税の恩恵は、時間の経過とともに大きくなります。経営者が従業員にiDeCoを推奨する際、「税金が安くなる」だけでなく「非課税で資産が大きく育つ可能性がある」と伝えることで、制度の利用が増えるかもしれません。
運用商品を選択できる
自身で運営管理機関を選べるのも、iDeCoの大きなメリットです。運営管理機関は、それぞれ異なる運用商品を扱います。企業型DCの運用商品ラインナップ以外で運用したい場合や、より積極的に資産運用を行いたい場合は、iDeCoを併用することで投資方針やリスク許容度に合った選択ができるでしょう。
転職・退職しても継続しやすい
iDeCoは継続のしやすさも特徴です。iDeCoは個人に紐づく制度であるため、転職や退職をしても原則として口座をそのまま継続できます。転職先の企業に企業型DCがない場合でも、iDeCoの口座はそのまま継続して利用できるため、キャリアプランの変化に柔軟に対応しながら長期的な資産形成を続けられます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)のデメリット
各種手数料が自己負担
iDeCoでは、口座管理手数料や運営管理機関手数料など、各種手数料が自己負担となります。手数料は運営管理機関によって異なり、相場は毎月数百円程度です。掛金が少ない場合や運用益が低い場合、手数料が資産形成の足かせとなるリスクも考えなくてはなりません。
自身で管理する必要がある
iDeCoは自身で運営管理機関を選び、口座開設の手続きを行い、運用商品を管理する必要があります。投資経験がない人や運用に時間をかけたくない人にとっては、手続きや管理が負担となるかもしれません。
拠出に制限がかかる場合がある
転職先の企業型DCとの兼ね合いも考慮しなければなりません。転職先の企業で企業型DCを導入している場合、iDeCoの拠出に制限がかかるケースがあるためです。
転職先の企業型DCの掛金や、確定給付企業年金(DB)などの他制度の掛金相当額が大きい場合は、注意が必要です。法令で確定拠出年金全体の掛金上限額が定められているため、iDeCoで拠出できる掛金の上限額が低くなったり、場合によっては拠出できなくなったりするケースもあります。
また、マッチング拠出同様、iDeCoで積み立てた資金も原則として60歳まで引き出せません。緊急時に資金が必要になった場合は、この点がデメリットとなるでしょう。
マッチング拠出とiDeCo、両方に加入できる?

企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している従業員が、iDeCoにも加入することは可能です。しかし、企業型DCにおいてマッチング拠出を利用している場合、iDeCoとの併用はできません。
これは、マッチング拠出とiDeCoのどちらか一方でしか、掛金の全額所得控除を受けられないという制度上の制限があるためです。全額所得控除という強力な税制優遇の「二重取り」を防ぎ、税制上の公平性を保つためにこのような制約が設けられています。
| マッチング拠出を利用している場合 | 企業型DCでマッチング拠出を利用されている従業員は、iDeCoには加入できません。この場合、従業員が追加で老後資金を形成する手段はマッチング拠出のみとなります。 |
|---|---|
| マッチング拠出を利用していない場合 | 企業型DCでマッチング拠出を利用していない従業員は、iDeCoに加入して自分で掛金を拠出します。企業型DCの掛金とiDeCoの掛金は別々に管理され、それぞれで運用を行います。 |
ただし、iDeCoで拠出できる掛金の上限額は、企業型DCの掛金額や他の企業年金制度の状況によって異なります。
2024年12月以降、企業型DCまたは確定給付企業年金(DB)に加入している方のiDeCo拠出限度額は、月額55,000円から企業年金の掛金相当額を控除した額となり、上限が月額20,000円に引き上げられました。
自身のiDeCo拠出可能額は、自社の企業型DCの規約や担当部署、またはiDeCoの運営管理機関に確認しましょう。
マッチング拠出とiDeCoを徹底比較

マッチング拠出とiDeCo、どちらを選ぶべきかは人それぞれで、状況や考え方によって最適解は異なります。以下の5つの点を考慮し、自身にとって最適なほうを選びましょう。
- 税制優遇効果:どちらがより大きな所得控除や運用益非課税の恩恵を得られるか
- 手数料負担:口座管理手数料など、自己負担となる手数料の有無や金額
- 拠出可能額:自分が希望する金額をどちらの制度でより多く拠出できるか
※特に「年金制度改革」で議論されている引き上げ案を考慮 - 運用商品の選択肢:多様な商品から選びたいか、既存の企業型DCの商品で十分か
- 手続きの手間:手軽さを優先するか、自身で運営管理金融機関を選び管理したいか
両制度の主な特徴は以下のとおりです。
| 項目 | マッチング拠出 | iDeCo(個人型確定拠出年金) |
|---|---|---|
| 掛金拠出者 | 従業員自身(企業掛金に上乗せ) | 従業員自身 |
| 税制優遇 | 掛金全額所得控除、運用益非課税、受取時控除 | 掛金全額所得控除、運用益非課税、受取時控除 |
| 手数料負担 | 原則なし(企業型DCの手数料は企業負担) | 自己負担(口座管理手数料など) |
| 拠出上限額 | 企業掛金と同額以下(2025年中に撤廃予定)、かつ企業掛金との合計で制度上の上限額内(月額5.5万円、2028年6月までに月額6.2万円に引き上げられる可能性あり) | 加入者区分や他の年金制度の加入状況による(会社員の場合月額2万円、2028年6月までに企業型DCと合計で6.2万円に引き上げられる可能性あり) |
| 運用商品 | 企業型DCのラインナップに限定 | 金融機関によって多様な商品から選択可能 |
| 手続きの手間 | 新たな口座開設不要、企業型DC内で完結 | 金融機関の選択や口座開設、管理を自身で行う |
| ポータビリティ | 企業型DCの資産として転職・退職時に移換 | 個人に紐づくため転職・退職しても継続しやすい |
| 掛金変更頻度 | 原則年1回 | 原則年1回 |
| 導入の有無 | 企業年金規約に記載されている必要あり | 個人で自由に加入可能 |
それぞれの違いを踏まえて、マッチング拠出とiDeCoのどちらを選べばよいか、見ていきましょう。
こんな場合、どちらを選ぶべき?
実際にマッチング拠出とiDeCoを選ぶ際に、参考になるような具体的なケーススタディを紹介します。自身の状況に当てはめて最適な選択をしましょう。
ケース1:企業型DCの掛金が少ない場合
現行制度において、企業型DCの事業主掛金が比較的少ない場合、マッチング拠出で追加拠出できる金額は限られます。この場合は、iDeCoのほうが多くの金額を追加拠出できる可能性があり、税制メリットが大きくなります。
特に2025年度の年金制度改革により、企業年金に加入していない会社員のiDeCo拠出限度額が大幅に引き上げられる見込みです。ただし、iDeCoは手数料が自己負担となるため、拠出額と税制優遇効果を考慮し、手数料を上回るメリットがあるか確認しましょう。
ケース2:手軽さを重視したい場合
運用商品の選択や口座管理の手間をかけたくない、手軽に老後資金形成を始めたい場合は、マッチング拠出がおすすめです。マッチング拠出はすでに利用している企業型DCの口座で完結するため、新たな手続きや管理の手間がほとんどかかりません。
ケース3:運用商品を自分で選びたい場合
既存の企業型DCの運用商品ラインナップに物足りなさを感じている、あるいは自分の投資方針に合わせてさまざまな商品から選びたいという場合は、iDeCoが適しています。
運営管理機関によっては国内外の株式や債券、バランス型ファンドなど、幅広い商品を用意しています。より積極的な資産運用を目指したり、リスクを分散したりするなど、個々のニーズに合わせたポートフォリオを構築したい方はiDeCoを検討しましょう。
まとめ
マッチング拠出とiDeCoはどちらも従業員の老後資金形成を支援し、税制優遇の恩恵を受けられる制度です。最適な選択をするためには、所得状況、企業型確定拠出年金(企業型DC)規約、運用に対する考え方、将来のライフプランなどを総合的に考えることが大切です。
経営者は、制度について従業員へ適切な説明や情報提供を行う必要があります。その際は、以下の資料も参考にしてください。確定拠出年金制度の導入・活用は、単なる福利厚生に留まらず、企業と従業員の双方にとって「未来への投資」となるでしょう。
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