一人法人(ひとり社長)は企業型確定拠出年金に加入できる?

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、従業員の退職金準備のために企業が導入する制度ですが、「一人法人(ひとり社長)でも加入できるのか」と疑問に思う方もいるでしょう。


結論から言えば、一人法人であっても企業型確定拠出年金への加入は可能です。


本記事では、一人法人(ひとり社長)が企業型確定拠出年金に加入できる理由やiDeCoなどの他制度との違い、導入のメリット・デメリットについて解説します。

今、見直しが必要な理由とは 「4大制度」の仕組みや特徴を徹底比較 自社に合う退職金制度の見つけ方

目次

    一人法人(ひとり社長)は企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入できる?

    一人法人(ひとり社長)は企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入できる?

    企業型確定拠出年金の加入資格は「企業の厚生年金被保険者であること」です。法務局に登記された「法人」であれば、たとえ「ひとり社長」であっても健康保険と厚生年金への加入が義務付けられています。

    そのため、一人法人(ひとり社長)でも企業型確定拠出年金に加入することが可能です。

    企業型確定拠出年金は、国の定める確定拠出年金法にもとづいて運営される私的年金制度の1つです。従業員(役員を含む)が自らの責任で運用商品を選び、運用実績によって将来の給付額が変動する仕組みになっています。

    公的年金だけでは不足しがちな老後資金を補完する役割を担っており、iDeCoとの併用も可能です。

    企業型確定拠出年金を導入する際には、運営管理機関の選定や規約の作成など、いくつかの手続きが必要となりますが、長期的な視点で安定した資産形成を実現できるでしょう。

    一人法人(ひとり社長)と個人事業主(フリーランス)の違い

    一人法人(ひとり社長)と個人事業主(フリーランス)の違い

    「一人法人」と「個人事業主(フリーランス)」は、どちらもひとりで事業を行っている点では共通していますが、以下の点が異なります。

    比較項目 一人法人
    (ひとり社長)
    個人事業主
    (フリーランス)
    法的形態 法人格あり 法人格なし
    社会的信用 高い 法人に比べて低い傾向
    税金 法人税
    (役員報酬は給与所得)
    所得税
    (事業所得)
    社会保険 健康保険・厚生年金 国民健康保険・国民年金
    加入できる主な年金制度 企業型確定拠出年金
    iDeCo
    小規模企業共済
    iDeCo
    小規模企業共済
    国民年金基金
    付加年金

    一人法人(ひとり社長)と個人事業主(フリーランス)の大きな違いは健康保険・厚生年金の加入の有無です。

    一人法人は厚生年金に加入する「第2号被保険者」であるため、厚生年金被保険者を対象とする「企業型確定拠出年金」に加入できます。

    一方、個人事業主は国民年金に加入する「第1号被保険者」であり、企業型確定拠出年金には加入できず、その代わり「国民年金基金」や「付加年金」といった第1号被保険者専用の制度に加入することになります。

    企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入するメリット

    企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入するメリット

    一人法人の経営者が、企業型確定拠出年金を導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。とくにiDeCo(個人型)と比較した場合のメリットについて解説します。

    税制上のメリットが大きい

    企業型確定拠出年金の掛金は、全額を法人の「損金」として計上でき、税制上のメリットを享受できます。

    また、企業型確定拠出年金の掛金は役員報酬(給与)とはみなされません。そのため、掛金分が非課税扱いとなり、所得税の計算や社会保険料の算定基準の対象にならず、個人の資産についても税制上のメリットが期待できます。

    iDeCoを上回る掛金上限額が設定されている

    企業型確定拠出年金はiDeCoよりも掛金の上限額が高くなっています。

    ■ 企業型確定拠出年金の掛金上限:月額 55,000円

    ■ iDeCoの掛金上限(企業年金のない会社員):月額 23,000円

    拠出できる枠が2倍以上違うため、より多額の資金を非課税で運用に回し、大きな税制上のメリットを享受できます。

    なお、2025年6月の年金制度改正法が成立したことにより、企業年金のあるなしにかかわらず月額62,000円が上限となる見込みです。限度額の引き上げは、2027年からの適用が予定されています。

    そのため一人法人など少人数の企業においては個人の税制上のメリットに違いはなくなることから、企業型確定拠出年金の利用はその他のメリットを踏まえ慎重に検討する必要があります。

    参考:厚生労働省「令和7年度税制改正に関する参考資料

    手数料を法人経費(損金)にできる

    企業型確定拠出年金は、企業が導入し、その維持にかかる手数料は企業が負担します。一人法人の場合、手数料は全額を法人の損金として計上できるため、税制上のメリットがあります。

    企業が支払う手数料が経費となることで、法人税の課税所得を圧縮し、実質的な税負担を軽減することが可能です。これにより、個人的な投資よりも税制面が優遇されるためコスト負担を抑えつつ、資産形成ができます。

    iDeCoより大きな非課税メリット

    企業型確定拠出年金は、運用期間中に得た利益も非課税になります。

    通常は、株式や投資信託などの金融商品で運用して利益(売却益や分配金・配当金)が出た場合は、課税対象とされます。

    しかし、企業型確定拠出年金の口座内で運用した場合、利益は資産として元本に上乗せされます。

    この運用益が非課税となる点はiDeCoも同様です。しかし、企業型確定拠出年金はiDeCoよりも一般的に多くの掛金を積み立てることが可能であるため、この非課税のメリットをより大きく享受できると言えます。

    非課税となった運用益はそのまま再投資に回せるため、「複利効果」があるのも企業型確定拠出年金のメリットの1つです。

    企業型確定拠出年金(企業型DC)を一人法人が導入するデメリット

    企業型確定拠出年金(企業型DC)を一人法人が導入するデメリット

    メリットが大きい一方、一人法人が企業型確定拠出年金を導入するには特有のデメリットや注意点も存在します。

    導入・運営にコストがかかる

    iDeCo(個人型)が個人で手軽に始められるのに対し、企業型確定拠出年金は「制度」を導入するための導入・運営にコストが発生します。

    例えば、導入時には制度設計や規約作成、金融機関との契約などで初期費用がかかり、運営が始まると加入者が社長1名であっても、制度を維持するための手数料が継続的にかかります。

    運営での主なコストとしては、運営管理機関(金融機関など)に支払う「運営管理手数料」や「システム利用料」などです。

    一人法人の場合、これらのコストをすべて法人が負担しますが、所得税や社会保険料の軽減メリットや法人税の税制上のメリットが、運営コストを上回るかどうか、事前にシミュレーションすることが望ましいです。

    原則60歳まで引き出せない

    確定拠出年金(iDeCoを含む)は、老後の生活資金を準備することを目的とした制度であり、原則60歳になるまで資産を引き出せません

    そのため、経営困難に陥ったとしても、確定拠出年金口座の資金は企業の資産とは完全に分離されており、事業の運転資金として利用することはできないという点に注意が必要です。

    運用は自己責任(元本割れリスク)

    企業型確定拠出年金は企業が掛金を拠出し、加入者が自ら運用方法を決定する制度です。運用がうまくいけば、元本に加えて運用益が得られ、資産を大きく増やすことが期待できます。

    一方で、投資信託などの元本変動型の商品を選んだ場合、市場の動向によっては元本割れのリスクも存在します。

    そのため、企業型確定拠出年金に加入する際は、商品の選択だけでなく、長期的な視点に立ち、定期的にポートフォリオのバランスや目標達成に向けた状況を確認・調整することが重要です。

    従業員を雇用した場合は従業員の加入も必要

    制度導入時、社長一人であれば自身の掛金拠出だけで済みますが、その後、厚生年金被保険者となる従業員を雇用すると、その従業員にも加入義務が発生します。

    企業型確定拠出年金は福利厚生制度であるため、原則として厚生年金被保険者である従業員は全員加入の対象としなければなりません。規約で加入対象者を限定することも可能ですが、合理的な理由が必要であり、単純に従業員だからという理由で除外することはできません。

    そのため、従業員を雇用すれば、法人はその従業員の分の掛金も拠出する義務が発生します。当初は社長一人分のコストで済んでいたものが、事業拡大に伴う従業員の雇用によって、掛金負担が追加で発生する点に注意が必要です。

    確定拠出年金(DC)と確定給付年金(DB)の違いを比較

    確定拠出年金(DC)と確定給付年金(DB)の違いを比較

    確定拠出年金(DC)と似ている制度に、「確定給付年金(DB)」があります。両者の違いは以下の通りです。

    比較項目 確定拠出年金(DC) 確定給付年金(DB)
    給付額 運用成果により変動 あらかじめ確定
    資産運用の主体 加入者(個人) 企業
    運用リスク 加入者(個人)が負う 企業が負う
    ポータビリティ 高い(転職先に持ち運べる) 低い(規約による)
    投資教育 企業に努力義務あり 不要

    確定拠出年金(DC)は、原則として企業が毎月拠出する掛金の額を決定し、加入者はその掛金を自らの責任で運用商品(投資信託など)を選択して運用します。

    そのため、将来の受取額は運用成果次第で変動し、元本割れのリスクも加入者自身が負います。また転職時に資産を持ち運びやすい点(ポータビリティ)が特徴です。

    一方、確定給付年金(DB)は、将来受け取れる給付額が規約や計算式によってあらかじめ約束されている制度です。

    年金資産の運用・管理は主に企業側が行い、もし運用実績が悪化して積立不足が生じた場合でも、企業がその不足分を補填する責任を負います。

    企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoの違いを比較

    企業型確定拠出年金(企業型DC)とiDeCoの違いを比較

    一人法人の経営者は、企業型確定拠出年金とiDeCoのどちらも選択可能ですが、特性はそれぞれ異なります。企業型確定拠出年金とiDeCoの違いは以下の通りです。

    比較項目 企業型確定拠出年金 iDeCo
    加入資格 厚生年金被保険者 国民年金被保険者
    (20歳〜60歳未満の自営業、会社員、学生、専業主婦(夫)など)
    掛金拠出者 法人 個人
    掛金上限 月 55,000円 月 23,000円
    手数料負担 法人(損金) 個人
    税制メリット 掛金が法人の損金 掛金が個人の所得控除
    運用益の課税・非課税 非課税 非課税
    納付方法 法人が納付 原則個人口座から納付
    途中引出 原則60歳まで不可 原則60歳まで不可
    給付 原則60歳から年金もしくは一時金として受け取る 原則60歳から年金もしくは一時金として受け取る

    企業型確定拠出年金とiDeCoは、どちらも加入者自身が掛金を運用して将来の資産を形成する「確定拠出年金」制度である点は共通しています。しかし、運営主体と加入形態、掛金の取り扱いに違いがあります。

    大きな違いは、企業型確定拠出年金が「企業が導入する福利厚生制度」であるのに対し、iDeCoは「個人が任意で加入する私的年金」である点です。

    企業型確定拠出年金は、企業が制度を導入し、原則として企業が従業員(役員を含む)のために掛金を拠出します。また、掛金は全額が法人の「損金」として扱われるため、税制上のメリットがあります。

    一方、iDeCoは、加入者自身が金融機関を選んで加入手続きを行い、掛金も自分自身で拠出します。掛金は全額が個人の「所得控除」の対象となるため、拠出した本人の所得税・住民税が軽減されます。

    つまり、企業型確定拠出年金は企業主導の制度であり掛金は企業の経費(損金)になる一方、iDeCoは個人主導の制度であり掛金は個人の税金優遇(所得控除)になるという点が異なります。

    まとめ

    一人法人(ひとり社長)でも、厚生年金被保険者であれば企業型確定拠出年金に加入できます

    企業型確定拠出年金は、iDeCoと比較して掛金上限額が高く、掛金や手数料を法人の損金(経費)として計上できるため、個人・法人両面で大きな税制上のメリットが期待できます。

    一方で、導入・運営コストが発生し、原則60歳まで資産を引き出せないといった注意点も存在します。老後資金の準備には小規模企業共済など他の制度もあり、どの制度が最適かを見極めることが重要です。

    SBIベネフィット・システムズが提供する企業型確定拠出年金は、「人数にかかわらず導入可能」な制度であり、中小企業や一人法人でも活用が可能です。

    大手金融機関では採算面から「30名以下の企業に提案しにくい」とされていますが、SBIベネフィット・システムズなどの運営機関では1名から導入できるプランが整備されています。

    詳細な制度比較については、資料をダウンロードしてご確認ください。

    今、見直しが必要な理由とは 「4大制度」の仕組みや特徴を徹底比較 自社に合う退職金制度の見つけ方

    監修者名
    北 光太郎
    監修者プロフィール
    社会保険労務士で、「きた社労士事務所」代表。企業の労務担当として10年間実務を経験したのちに独立。社会保険労務士として中小企業の労務管理をサポートするとともに、Webメディアの記事やホワイトペーパー、業界専門誌などで人事・労務分野の記事執筆・監修にも注力。実務経験に基づいた専門性の高いコンテンツ制作を通じてメディアの専門性と信頼性向上を支援している。

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