確定拠出年金 退職時の手続きと注意点!無職・独立・転職時の賢い選択肢

中小企業にとって優秀な人材の確保と定着は、持続的な事業成長に不可欠な要素です。「良い人材を確保するために、福利厚生の見直しをしなければならない」という悩みを抱える経営者は多いでしょう。


解決策として注目されているのが、企業型確定拠出年金(企業型DC)です。老後の資産形成において、企業型DCや個人型確定拠出年金(iDeCo)の重要性が、現在高まっています。


一方で、人材の流動性が高い近年では、「会社を辞めたら企業型DCはどうなるのか?」「何か手続きが必要か?」といった不安を抱える人もいるようです。


本記事では、従業員が退職や転職する際に企業型DCの資産をどうすべきか、必要な手続きや賢い選択肢について分かりやすく解説します。

今、見直しが必要な理由とは 「4大制度」の仕組みや特徴を徹底比較 自社に合う退職金制度の見つけ方

目次

    退職・転職時に確定拠出年金(企業型DC)はどうなる?

    退職・転職時に確定拠出年金(企業型DC)はどうなる?

    企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が積み立てた掛金を従業員が自ら年金資産として運用する制度です。制度の大きな特徴として「ポータビリティ制度」があります。従業員が退職や転職をする場合でも、原則として積み立てた年金資産は引き続き運用できる制度です。

    「ポータビリティ制度」では、勤務先が変わってもそれまでの資産形成が無駄にならず、持ち運び(移換)して継続できるようになっています。

    しかし、資産が自動的に新しい勤務先や個人型年金に移るわけではありません。確定拠出年金資産の移換には、加入者自身で所定の手続きを行う必要があります。

    手続きは、退職日の翌日から起算して6ヶ月以内に行わなくてはいけません。手続きを怠ると、手数料がかかったり、資産を非課税で運用できなくなったりするリスクがあります。

    確定拠出年金の「ポータビリティ制度」は、従業員のキャリアパスを支援する福利厚生と言えるでしょう。人材の流動性が高まる中で、従業員が安心して転職できる環境を提供することで、長期的なキャリア形成をサポートします。結果的に、企業へのエンゲージメントを高める要素となり得ます。

    【関連記事】
    ポータビリティとは?確定拠出年金を転職時に移管するメリットと注意点

    転職先に企業型DC制度がある場合の手続きと注意点

    転職先に企業型DC制度がある場合の手続きと注意点

    転職先の企業に企業型確定拠出年金(企業型DC)制度がある場合、原則として、以前の勤務先で積み立てた資産を、転職先の企業型DC制度へ移換する手続きを行います。

    移換の手順

    転職先企業への確認

    転職先の企業に企業型DC制度があるか、また、その制度へ移換が可能かを確認します。転職先の人事・総務部門や確定拠出年金の担当部署に問い合わせてください。

    必要書類の準備

    転職先の企業型DCの運営管理機関(または転職先の担当部署)から、移換に必要な書類を入手します。代表的な書類としては、「個人別管理資産移換依頼書」が挙げられます。

    以前の勤務先から送付される「確定拠出年金の加入者資格喪失のお知らせ」や「加入者資格喪失手続完了通知書」などの書類に記載された情報が必要となる場合があるため、大切に保管しておきましょう。

    書類の提出

    必要事項を正確に記入し、添付書類とともに運営管理機関へ提出します。書類に不備があると手続きが遅れる原因となるため、注意が必要です。

    運用商品の再選択

    移換手続きの過程で、以前運用していた資産は一度売却され、現金化されます。これは、移換元と移換先で運用商品ラインナップや管理会社が異なるためです。移管完了後、転職先の企業型DCで提供されている運用商品の中から改めて商品を選択し、配分設定を行う必要があります。

    移換時の注意点

    移換できないケース

    転職先の企業型DC制度の規約によっては、移換ができないケースや、移換できる資産の種類に制限がある場合があります。事前に必ず確認し、移換が難しい場合はiDeCoへの移換など、別の選択肢を検討します。

    移換手数料

    移換時に手数料が発生する場合があります。運営管理機関によって手数料が異なるため、事前に確認が必要です。手数料は移換される資産から差し引かれることが一般的です。

    運用商品の変更

    移換先の企業型DCの運用商品のラインナップは、以前の勤務先のものとは異なる場合があります。資産の現金化と運用商品の再選択は、一見すると手間のように感じられるかもしれませんが、運用ポートフォリオを定期的に見直す機会でもあります。

    転職先に企業型DC制度がない場合の手続きと注意点

    転職先に企業型DC制度がない場合の手続きと注意点

    転職先に企業型確定拠出年金(企業型DC)制度がない場合、iDeCo(個人型確定拠出年金)への移換が選択肢のひとつとなります。手続きをしないと、国民年金基金連合会へ自動移換されるため、注意が必要です。

    iDeCo(個人型確定拠出年金)への移換

    転職先に企業型DC制度がない場合、最も一般的な選択肢は、個人型確定拠出年金(iDeCo)への資産移換です。iDeCoは企業に属していなくても、個人で加入できる確定拠出年金制度です。企業型DCと同様に、運用益が非課税になる税制優遇を受けながら資産を形成できます。

    iDeCoへの移換手続き

    iDeCoへの移換には自分でiDeCoを取り扱う金融機関(運営管理機関)を選び、口座を開設する必要があります。その後、「個人別管理資産移換依頼書」などの必要書類を提出します。手続きには、通常1ヶ月半から2ヶ月半程度かかりますので、早めに対応しましょう。

    iDeCoのメリット

    税制優遇
    iDeCoの掛金は全額所得控除の対象となり、所得税や住民税の軽減につながります。運用益は非課税で再投資され、通常課税される約20%の税金がかかりません。また、受け取る際にも公的年金等控除や退職所得控除が適用されるなどの税制優遇があります。

    運用商品の選択肢の広さ
    企業型DCと比較して、iDeCoは金融機関が提供する運用商品の選択肢が広い場合があります。

    柔軟な掛金設定
    収入状況に応じて掛金額を柔軟に変更したり(最低月額は5,000円)、一時的に停止したりすることが可能です。例えば、一時的に収入が減少した場合でも掛金を減額・停止できるため、無理なく制度を継続できます。

    iDeCoのデメリット

    手数料は自己負担
    企業型DCでは企業が負担していた口座管理手数料や運営管理手数料が、iDeCoでは原則として自己負担となります。金融機関によって手数料体系が異なるため、比較検討をしましょう。

    国民年金基金連合会への移換(自動移換)

    もし、退職や転職した後6ヶ月以内にiDeCoへの移換手続きなどを行わなかった場合、確定拠出年金の資産は自動的に国民年金基金連合会に「自動移換」されてしまいます。

    自動移換されると、資産が運用されずに現金として保管されます。運用益が非課税になるメリットを活用できず、毎月手数料が徴収されるというデメリットがあるため、極力避けるべき選択肢と言えるでしょう。

    後述の「退職・転職時に企業型DCを放置するとどうなる?」で、詳しく解説します。

    脱退一時金の可能性

    非常に限定的なケースではありますが、一定の要件を満たせば、確定拠出年金資産を「脱退一時金」として受け取れる場合があります。これは、原則として60歳まで引き出せない確定拠出年金において、例外的に認められるものです。

    なお、脱退一時金を受け取るには以下の要件すべてを満たす必要があり、対象となる人は限られます。

    年金資産残高が15,000円以下
    • 企業型DC、iDeCoのいずれかの加入者、運用指図者でないこと
    • 企業型DCの資格を喪失した日が属する月の翌月から起算して6ヶ月を経過していないこと
    年金資産残高が15,000円超
    • 企業型DC加入者、企業型DC運用指図者、iDeCo加入者及びiDeCo運用指図者でないこと
    • 最後に企業型DCの資格を喪失した日の翌月から6ヶ月を経過していないこと
    • 60歳未満であること
    • 国民年金第1号被保険者のうち、国民年金保険料の全額免除または一部免除、もしくは納付猶予を受けている者であること
    • 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でないこと
    • 障害給付金の受給権者でないこと
    • 通算拠出期間が1ヶ月以上5年以下であること、又は個人別管理資産額が25万円以下であること

    退職後、しばらく無職になる場合や独立開業する場合の確定拠出年金

    退職後、しばらく無職になる場合や独立開業する場合の確定拠出年金

    退職後、すぐに次の職場が決まらない場合や、独立して自営業者・フリーランスとして活動する場合でも、確定拠出年金資産の運用を継続することが可能です。

    iDeCoへの移換が基本

    しばらく無職になる場合や独立開業する場合も、企業型DCの資産をiDeCo(個人型確定拠出年金)へ移換することが基本的な選択肢となります。iDeCoは国民年金の65歳未満の被保険者であれば、原則として誰でも加入できる制度です。加入できる年齢は、2025年度の税制改正により、70歳未満までの引き上げが予定されています。

    iDeCoの掛金上限額は、国民年金の被保険者種別や企業年金の加入状況によって異なり、自分の状況に合わせた掛金設定ができます。例えば、自営業者など国民年金第1号被保険者の方は月額68,000円まで、専業主婦(夫)など国民年金第3号被保険者の方は月額23,000円まで拠出可能です。企業型DCやDBなど、他の企業年金制度に加入している第2号被保険者の方は月額20,000円が上限となります。なお、2025年度の税制改正によると、掛金の上限引き上げが予定されています。

    掛金の変更や停止

    iDeCoでは収入状況やライフプランの変化に応じて、掛金額を柔軟に変更したり、一時的に停止したりすることが可能です。例えば、独立開業直後で収入が不安定な時期には掛金を停止し、事業が軌道に乗ってから再開できます。

    また、運用商品の見直しや配分変更といった運用指図の変更も自由に行えます。市場環境の変化や投資目標に合わせてポートフォリオを最適化できる、自由度が高い制度と言えるでしょう。

    退職・転職時に企業型DCを放置するとどうなる?

    退職・転職時に企業型DCを放置するとどうなる?

    企業型確定拠出年金(企業型DC)の資産は、退職・転職時に適切な手続きを行わないと、従業員にとって大きな不利益が生じるリスクがあります。

    とくに注意すべきは、先にも触れた「自動移換」という状態です。企業型DCの加入者資格を喪失したにもかかわらず、6ヶ月以内に他の確定拠出年金制度への移換手続きや脱退一時金の請求手続きを行わなかった場合に起こります。

    2022年の厚生労働省のデータによると、自動移換者は約66万人、自動移換された資産額は約2,819億円にものぼります。

    多くの金融機関がWebサイトや通知書を通じて注意喚起を行っているものの、自動移換されてしまう人が毎年のようにいるのが実情です。

    なお、新たに企業型DCまたはiDeCoの口座を開設し、基礎年金番号・性別・生年月日・カナ氏名などの本人情報が一致する場合、自動的に新しい口座に移換されることがあります。ただし、資産が自動移換されないように、企業も手続きについての情報提供と退職後のフォローを行うべきです。

    企業型DCを放置した場合、具体的にどんなことが起こるのか、詳しく説明します。

    参考:厚生労働省「参考資料(いわゆる総合型DC、自動移換、いわゆる選択型DB・選択制DC、健全化法への対応)

    運用が不可能になる

    自動移換された資産は現金として管理されるため、運用指図が一切できなくなります。つまり、投資信託の運用で期待できる、市場の成長による資産増加の機会を完全に失ってしまうのです。

    運用ができない状況は、長期的な資産形成において非常に大きな機会損失となります。とくに物価上昇する社会情勢では、現金の価値が目減りするリスクも伴うため、実質的な資産価値が減少する恐れがあります。

    手数料が差し引かれる

    自動移換された資産は運用ができないにもかかわらず、管理手数料が差し引かれ続けます。自動移換には初期の手数料に加え、自動移換中に毎月管理手数料が徴収されるため、資産が一方的に減少していくことになります。

    差し引かれる手数料

    自動移換手数料 自動移換中の管理手数料 再移換手数料
    特定運営管理機関手数料 3,300円 52円/月(年間624円)
    ※自動移換後、4ヶ月目以降毎月52円が発生し、年1回3月末にまとめて徴収(4月収受)
    再移換(自動移換資産を企業型DCやiDeCoへ移す場合の手数料)特定運営管理機関手数料として1,100円
    ※加えてiDeCo側で手数料がかかる場合あり
    国民年金基金連合会手数料 1,048円

    受給開始時期が遅くなる

    確定拠出年金の老齢給付金は原則60歳から受け取れますが、受給するには10年以上の「通算加入等期間」が必要です。自動移換中の期間は「通算加入者等期間」に算入されないため、年金受給開始時期が遅れる恐れがあります。

    まとめ

    退職や転職をする際の確定拠出年金(企業型DC)の取り扱いで最も大切なのは、企業型DCの資産を放置することのリスクを認識し、早めの手続きを行うことです。

    手続きを怠り、資産が自動移換されてしまうと運用ができなくなり、手数料が差し引かれます。さらに、年金受給開始時期が遅れるという不利益も生じます。

    転職先に企業型DC制度がある場合は、そちらへ移換してください。引き続き、企業に掛金を拠出してもらいながら、非課税で資産形成を継続できます。転職先に企業型DC制度がない場合や、しばらく無職になったり独立開業したりする場合は、自分でiDeCo(個人型確定拠出年金)に資産を移換しましょう。

    確定拠出年金制度は、単なる退職金制度だけではなく、従業員の長期的な資産形成を支援する福利厚生です。企業型DCと他の退職金制度を比較して、自社に最適な制度を選択しましょう。

    今、見直しが必要な理由とは 「4大制度」の仕組みや特徴を徹底比較 自社に合う退職金制度の見つけ方

    監修者名
    柴田 充輝
    監修者プロフィール
    社会保険労務士・FP1級技能士。厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士の資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融や不動産メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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    法律・会計・税制上の助言をなすものではございません。法律・会計・税制上の取扱いについては各専門家にご確認・ご相談くださいますようお願い申し上げます。
    作成日時点での情報等に基づき本記事を作成しておりますが、法改正等により内容が異なる場合もございます。

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