退職金制度、どう選ぶべき?
3つの主要制度(一時金・DB・企業型DC)のメリット・デメリットを比較

退職金制度とは、従業員が退職した(する)際にそれまでの労働への報酬として企業から金銭が支給される制度のことです。


「公的年金だけでは老後生活への不安が拭えない」と言われる少子高齢化の時代。会社員にとって退職金制度は、老後資金を支える重要な仕組みの1つです。また、従業員だけでなく企業にとっても、退職金制度は優秀な人材の確保や従業員のエンゲージメント向上に役立つ制度と言えます。


本記事では、代表的な退職金制度である「退職一時金制度」「確定給付企業年金(DB)」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の3つについて、それぞれの仕組みや特徴、メリット・デメリットを比較して解説します。


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目次

    日本の代表的な退職金制度「退職一時金制度」の仕組みと特徴

    日本の代表的な退職金制度「退職一時金制度」の仕組みと特徴

    日本の多くの企業で長年採用されてきた福利厚生の1つに、「退職金制度」があります。そのなかで最も代表的な制度と言えるのが「退職一時金制度」です。

    以下では、「退職一時金制度」の概要や企業側・従業員側にとってのメリット・デメリットをそれぞれ解説します。

    概要

    退職一時金制度は、従業員が退職する際にまとまった金額を支給する、これまで日本で伝統的に採用されてきた退職金制度です。法律上、企業に退職金を支給する義務はありませんが、多くの企業が福利厚生として自主的に制度を設けています。退職金の計算方法には「最終給与連動型」や「勤続年数比例型」、「ポイント制」などがあり、一般的に勤続年数が長いほど高額になります。

    厚生労働省が発表している2023年の調査結果(令和5年就労条件総合調査)によると、退職金制度を設けている企業は全体の74.9%にのぼります。そのうちの90.4%が退職一時金制度を導入しており、21.4%が他制度と併用していることが分かりました。

    また、近年では中小企業においても退職金制度の新規導入が進んでいる傾向があります。先の「令和5年就労条件総合調査」によると、過去3年間で退職一時金制度の見直しを行った企業は7.9%(中小企業を含む)。うち30.0%が「新たに導入、または既存に追加」という結果が出ています。加えて、今後3年間で見直しを予定している企業は6.7%となっており、そのなかの34.2%が「新規導入または追加」を予定しています。

    中小企業でも退職金制度の導入が進んでいる背景としては、「深刻な人手不足」と「中小規模の企業でも取り入れやすい制度の普及」の2点があると考えられます。少子高齢化で労働人口の減少に歯止めがかからない今日、人材の確保は極めて重要な経営課題であり、早急に対応しなければなりません。

    福利厚生の柱である退職金制度の有無は、求職者にとって魅力的な労働条件か否かを判断する材料となり、競合他社との差別化や従業員のエンゲージメント向上にもつながります。また働き方の多様化が進むなか、主流だった退職一時金制度の代わりに「中小企業退職金共済(中退共)」や「確定給付企業年金(DB)」、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」など、外部機関を活用した比較的導入・管理しやすい制度が普及し、導入のハードルが下がったことも要因に挙げられます。

    出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 3 退職給付(一時金・年金)制度

    企業側のメリット・デメリット

    メリット

    • 制度設計の自由度が比較的高い

    デメリット

    • 多額の現金支出が一度に発生する可能性がある
    • 景気変動による原資不足リスクやインフレに対応しにくい

    退職一時金制度は社内で完結する制度のため制度設計の自由度が比較的高く、手続きや運用を自社の裁量で管理でき、企業として資金管理がしやすい点がメリットです。掛金の積立義務が確定給付企業年金(DB)ほど厳格ではなく、積立額の設定やルールは企業が独自に決定できます。

    一方で、退職金原資の積み立てはすべて企業の責任で行う必要があります。退職者が集中する時期(団塊世代の大量退職など)があると多額の現金支出が一度に発生し、企業財務を圧迫するリスクもあります。また、景気変動による原資不足リスクやインフレに対応しにくい点にも注意が必要です。

    従業員側のメリット・デメリット

    メリット

    • 退職時にまとまったお金を一括で受け取れる
    • 一般的に長く働けばそれだけ退職金も増える
    • 税制上の優遇措置(退職所得控除)が受けられる

    デメリット

    • 資産を自由に運用できない
    • 財務状況によって支払い額が変動するリスクがある

    従業員側のメリットは、退職時にまとまったお金を一括で受け取れる点です。住宅ローンの返済や子供の教育費、老後資金など、必要な用途にすぐ充てやすいという安心感があります。長く働けばそれだけ退職金も増える仕組みであるため、「定年まで頑張ればこれだけもらえる」という明確な目標ができ、勤続意欲やモチベーション向上につながります。

    また、退職金には税制上の優遇措置(退職所得控除)があり、長年勤続した人ほど控除額が大きい(税負担が軽減される)メリットもあります。

    一方で、確定拠出年金のように「運用がうまくいった場合に資産を大きく増やす」といったことができない点はデメリットの1つです。運用資金は会社の業績に依存するため、企業の財務状況によって支払い額が変動するリスクがあります。ただし、退職金の減額・廃止は就業規則の「不利益変更」にあたるため、企業の一方的な変更は原則としてできず、従業員との間で個別合意の手続きが踏まれます。

    約束された給付「確定給付企業年金(DB)」の仕組みと特徴

    約束された給付「確定給付企業年金(DB)」の仕組みと特徴

    確定給付企業年金(DB)は企業年金制度の1つです。概要や企業側、従業員側双方のメリット・デメリットを確認しておきましょう。

    概要

    確定給付企業年金は、企業が将来的に支給する退職金の金額をあらかじめ約束し、その内容に応じて給付を行う企業年金制度です。企業が拠出金を積み立て、企業年金基金や外部機関がその拠出金の運用を担います。従業員には、退職後に年金や一時金という形で給付金が支払われます(企業によっては一時金併用や選択も可能)。

    企業には給付額を保証することが求められており、予定利率を設定したうえで企業が責任を持って資産運用する点が特徴です。従業員に支給する金額は確定しているため、運用の結果が確定給付額を下回った場合は企業が不足分を補填して約束通りの給付をする仕組みになっています。

    企業側のメリット・デメリット

    メリット

    • 制度の導入自体が信用力やブランドの向上につながる
    • 拠出した掛金は損金算入できるため節税になる

    デメリット

    • 運用リスクとコストを企業がすべて負う必要がある

    企業側のメリットとして大きいのは、確定給付企業年金制度を導入していること自体が信用力やブランドの向上につながることです。「従業員の老後を支える会社」として対外的なイメージアップ効果があり、人材採用時にもプラスに働きます。とくに長期安定志向の優秀な人材にとって、福利厚生として将来の生活年金が確保されることは魅力的に映るでしょう。なお、拠出した掛金は損金算入が可能です。

    一方で、運用リスクとコストを企業がすべて負う点が最大のデメリットです。確定給付企業年金で計画通りの運用利回りを達成できなかった場合、企業は不足分を自社資金で補填し従業員へ給付しなければなりません。そのため、景気や市場変動により将来の掛金負担が不確定で、大きな積立不足が生じれば追加拠出が企業業績を圧迫する恐れもあります。

    従業員側のメリット・デメリット

    メリット

    • 将来受け取れる金額があらかじめ保証される
    • 従業員側で運用のリスクを負わない

    デメリット

    • 運用益が出ても自身の給付額には反映されない
    • 将来の給付額が引き下げられるリスクもある

    従業員側のメリットは、将来受け取れる金額があらかじめ保証されている点にあります。退職後の生活設計において安心感が得られ、受給予定額が明示されていることから長期的な資金計画を立てやすいと言えるでしょう。また、企業が運用を代行してくれるため、従業員側で運用リスクを負わない点もメリットの1つです。

    一方で、資産の運用状況を従業員自身ではコントロールできず、運用益が出ても自身の給付額に反映されないというデメリットがあります。加えて、企業の業績悪化や年金基金の運用不振により、将来の給付額が引き下げられるリスクもゼロではありません。

    自分で育て持ち運べる年金「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の仕組みと特徴

    自分で育て持ち運べる年金「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の仕組みと特徴

    企業型確定拠出年金(企業型DC)も確定給付企業年金(DB)と同様、企業年金の一種です。概要や企業側、従業員側双方のメリット・デメリットを解説します。

    概要

    企業型確定拠出年金は、企業が拠出した掛金を従業員個人が自己責任で運用し、その運用成果に応じて将来的に受け取れる金額が変動する企業年金制度です。

    企業が毎月(または毎年)従業員分の掛金を一定額拠出し、従業員は用意された金融商品の中から自身で選択し運用します。

    運用期間中の収益は非課税で積み立てられ、原則として60歳以降に資産を一時金または年金として受け取る仕組みです。企業側には給付額を約束する責任がなく、掛金の拠出をもって給付に関する義務は完了となります(ただし、制度運営や投資教育提供の義務はあります)。2001年10月に確定拠出年金法が施行されて以降普及が進み、現代の多様な働き方に適合した柔軟な退職金制度として注目されています。

    企業側のメリット・デメリット

    メリット

    • 追加拠出の必要がない
    • 掛金を全額損金扱いにできるため節税になる
    • 投資教育により従業員の資産形成に対する意識向上を促せる

    デメリット

    • 制度の導入や運営、手数料負担などを担う必要がある

    企業型DCの企業側におけるメリットは、確定給付企業年金(DB)のように運用不足時に追加拠出する必要がない点です。また、拠出した掛金以上の債務は発生せず、掛金は確定給付企業年金(DB)と同様に全額が損金扱いとなります。

    一方で、従業員それぞれが運用するとはいえ、制度の導入や運営、手数料負担などは企業が担わなければなりません。従業員に投資教育を継続的に提供し、運用サポートを行う責務が企業に課せられています。

    投資教育を実施する負担という点ではデメリットと言えますが、その反面、投資教育によって従業員の資産形成に対する意識向上を促せる点はメリットとも言えるでしょう。

    従業員側のメリット・デメリット

    メリット

    • 運用次第で将来受け取る退職金の額を自ら増やせる
    • 運用先を自由に選択できるため自主性・柔軟性が高い
    • マッチング拠出の導入企業なら、従業員の拠出分が税制優遇の対象に
    • 転職先が企業型DCを導入していれば継続運用が可能

    デメリット

    • 運用の結果次第で元本割れのリスクがある
    • リテラシーの差によって将来の受け取り額に差が生じる恐れがある
    • 原則60歳までは引き出せない

    運用次第で将来受け取る退職金の額を自ら増やせるのは、企業型DCにおける従業員側のメリットです。用意される運用商品も多岐にわたり、自身のリスク許容度やライフプランに合わせて運用先を選択できる自主性・柔軟性の高い制度と言えます。また、従業員側が事業主掛金に上乗せして掛金を拠出できる「マッチング拠出」を導入している企業なら、従業員の拠出分は「小規模企業共済等掛金控除」として税制優遇の対象になります。

    一方、資産運用の結果次第で受取額が減額し、元本割れのリスクもある点はデメリットです。運用がうまくいかなければ従来型の退職金より少ない額になる可能性もあり、退職後の資金に不確実性が生じます。

    投資知識や経験が乏しい人にとって資産運用は難しく、リテラシーの差によって将来の受け取り額に差が生じる恐れもあります。また、原則60歳までは引き出せない仕組みのため、「30代・40代で転職した際にそれまで積み立てた資産を生活費や独立資金に充てる」といったことはできません。ただし、転職時にはこれまで積み立てた拠出金を持ち運ぶことができるため、転職先が企業型DCを導入していれば引き続きの運用が可能です。

    どの退職金制度を選ぶべき?自社と従業員のための最適な制度とは

    どの退職金制度を選ぶべき?自社と従業員のための最適な制度とは

    「退職一時金」「確定給付企業年金(DB)」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」にはそれぞれ特徴があり、一概にどれが優れているとは言えません。自社に最適な制度を導入するためには、各制度の長所・短所を踏まえて総合的に判断することが重要です。

    それぞれの特徴は以下のとおりです。

    退職一時金制度 確定給付企業年金
    (DB)
    企業型確定拠出年金
    (企業型DC)
    仕組み 退職時に一時金を一括で支給 規約に基づき確定した給付額を年金・一時金で支給 拠出された掛金を従業員責任で運用し、結果に応じた給付額を支給
    給付額 規程に基づき算出
    (変動の可能性あり)
    あらかじめ確定 運用成果次第で変動
    運用責任 企業 企業 加入者
    企業負担 企業が原資を自社で積み立て、退職時に一括支給 企業が拠出・運用。運用による不足があれば追加補填も必要 企業は拠出のみ。運用による不足時に追加負担なし
    従業員のメリット 一括でまとまった金額を受け取れる 受給額が確定しており、運用リテラシーが不要 自分で資産形成でき、運用次第で受給額が増やせる
    転職時の持ち運び
    (ポータビリティ)
    できない できる(規約による) できる

    退職金制度を選ぶ際には、まず自社の経営状況や人材構成、将来の組織づくりをどう考えているかが判断の軸となります。

    例えば、「初めて退職金制度を導入したいが、できるだけシンプルで低コストに抑えたい」といった意向なら、退職一時金制度が適しているケースが多いと言えます。一方で、「従業員の定着を促し、採用力の強化にもつながる制度にしたい」といった意向がある場合には、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入が検討に値します。

    とくに企業型DCは企業に給付補填責任が発生せず、コスト面でも予測しやすいというメリットがあります。若手社員や中堅層が多く、転職やキャリアの変化が前提となる業種では、ポータビリティに優れた企業型DCの特性が活かされるでしょう。

    企業型DCで優秀な人材を引きつける!福利厚生強化の新常識

    企業型DCで優秀な人材を引きつける!福利厚生強化の新常識

    従業員の価値観やライフスタイルが多様化する現代において、企業がいかに従業員に寄り添い、長期的なキャリア形成や生活設計を支援できるかが採用・定着のカギを握っています。なかでも注目されているのが、企業型確定拠出年金(企業型DC)です。

    企業型DCは、企業が毎月一定額を従業員の資産として拠出し、従業員自身が運用先を選択して資産を形成していく制度です。給与とは別に将来の備えを提供できる点が評価され、「自分の将来を考えてくれる会社」という安心感や信頼感を生むことにつながります。これにより働きがいが高まり、企業へのエンゲージメント向上にも良い影響を及ぼすことが期待できます。

    また、若年層の就職・転職市場では、福利厚生の充実度が企業選びの基準として重視される傾向が強まっています。企業型DCは単なる制度提供にとどまらず、企業の「人を大切にする姿勢」を具体的に示す福利厚生として、高い訴求力を持っていると言えるでしょう。

    導入のハードルが高そうに思えるかもしれませんが、SBI証券/SBIベネフィット・システムズが提供する企業型DCプランであれば、手続きの煩雑さを担当者がサポートすることによって軽減し、企業規模やニーズに応じた柔軟な設計が可能です。運営管理機関としてのサポート体制も充実しており、はじめて導入する企業でも安心して取り組むことができます。

    「優秀な人材を惹きつけ、従業員の定着率を高める」。そんな戦略的な福利厚生として、企業型DCを導入する価値が高まっています。

    まとめ

    退職金制度は従業員の退職後の生活を支える重要な仕組みであり、企業にとっても人材確保や定着率向上に寄与する重要な施策と言えます。退職一時金・確定給付企業年金・企業型DC、それぞれの特徴やメリット・デメリットを正しく理解し、自社の状況に最適な制度を選択することが大切です。

    現代では公的年金への不安や働き方の変化から、企業型DCのような柔軟な制度が脚光を浴びています。企業型DCは企業の負担を抑えつつ従業員の将来をサポートできる有効な手段であり、SBI証券/SBIベネフィット・システムズが提供するプランを活用すれば中小企業でも導入が十分可能です。

    自社の退職金制度を整備することは、従業員の安心と会社の魅力を高める投資です。適切な退職金制度の導入に向けて検討を進めましょう。

    企業型DCの導入を検討している企業様向けに、制度の概要や設計ポイントなどをまとめた無料ガイドブックをご提供しています。導入の検討に、ぜひお役立てください。

    採用の新常識 優秀な人材から「選ばれる企業」が実践している福利厚生のポイントとは?

    監修者名
    北 光太郎
    監修者プロフィール
    社会保険労務士で、「きた社労士事務所」代表。企業の労務担当として10年間実務を経験したのちに独立。社会保険労務士として中小企業の労務管理をサポートするとともに、Webメディアの記事やホワイトペーパー、業界専門誌などで人事・労務分野の記事執筆・監修にも注力。実務経験に基づいた専門性の高いコンテンツ制作を通じてメディアの専門性と信頼性向上を支援している。

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    法律・会計・税制上の助言をなすものではございません。法律・会計・税制上の取扱いについては各専門家にご確認・ご相談くださいますようお願い申し上げます。
    作成日時点での情報等に基づき本記事を作成しておりますが、法改正等により内容が異なる場合もございます。

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