確定拠出年金と「退職金の前払い」はどう違う?
仕組みとメリット・デメリットを徹底比較

確定拠出年金と退職金の前払いは、どちらも退職金制度の選択肢として企業が導入するもので、その仕組みやメリットは大きく異なります。


例えば、将来の老後資金を計画的に積み立てたい場合には確定拠出年金が適しており、在職中の収入確保を重視したい場合には前払い退職金制度にメリットがあります。


本記事では、両者の仕組みや従業員にとってのメリット・デメリットを分かりやすく比較・解説します。

今、見直しが必要な理由とは 「4大制度」の仕組みや特徴を徹底比較 自社に合う退職金制度の見つけ方

目次

    給与に上乗せされる「前払い退職金制度」

    給与に上乗せされる「前払い退職金制度」

    前払い退職金制度とは、本来、退職時にまとめて支給される退職金を毎月の給与や賞与に上乗せして受け取る制度です。

    近年、雇用の流動化に伴って「退職金を退職時にまとめて受け取るよりも、在職中に受け取りたい」という従業員側のニーズが高まりつつあることを背景に、前払い退職金制度を導入する企業が増えています。

    ここでは、前払い退職金制度のメリット・デメリットについて解説します。

    前払い退職金制度のメリット

    前払い退職金制度の導入は、従業員にとって収入の増加や退職金を受け取れないリスクの回避といったメリットをもたらします。具体的なメリットは以下の通りです。

    • 毎月の手取り収入が増える
    • 不支給のリスクがなく安心

    毎月の手取り収入が増える

    前払い退職金は給与に上乗せして支給されるため、毎月の手取り収入がその分増加します。

    とくに収入の低い若手社員にとって、月々の収入が増えることは魅力的で、モチベーション向上につながります。

    また、生活費や住宅ローンの返済など、日々の支出に充てることができ、将来よりも現在の可処分所得を重視したい人にとっては、ライフステージに応じた支出や自己投資にもつなげやすい点がメリットと言えます。

    不支給のリスクがなく安心

    退職金は業績悪化による減額や企業倒産で、退職金自体が支払われないリスクもあります。

    前払い退職金制度であれば、在職中に退職金相当額を受け取るため、将来企業の経営事情で退職金が不払いになる事態を回避できます。

    仮に在職中に制度が変更・廃止されても既にもらった分を返金する必要はなく、受け取り済みの分だけは確保できる安心感があります。

    前払い退職金制度のデメリット

    前払い退職金制度は、従業員にとってメリットがある一方で、従来の退職金制度と比較していくつかの注意点も存在します。具体的なデメリットは以下の通りです。

    • 税金・社会保険料の負担増
    • 計画的な資産形成が難しい

    税金・社会保険料の負担増

    前払い退職金として支給された分は、給与所得や報酬として扱われるため、所得税や社会保険料の課税対象となります。

    そのため、給与から控除される所得税や社会保険料(健康保険・厚生年金保険など)が高くなり、結果として手取り額が額面より目減りする点に注意が必要です。

    また、前払い退職金では退職一時金に適用される退職所得控除が適用されず、長期勤続による税優遇メリットも得られません

    計画的な資産形成が難しい

    前払い退職金は毎月の給与に上乗せされるため、「退職金」としての意識が薄れがちです。受け取ったお金は自由に使える反面、計画的に貯蓄しないと散財してしまうリスクがあります。

    退職時にまとまった一時金があれば、住宅ローンの繰上返済や老後資金に充てるなど資金計画が立てやすい一方、前払い退職金では毎月少額で支給されるため、貯蓄に回しにくい傾向にあると言えます。

    将来のために積み立てる「企業型DC」

    将来のために積み立てる「企業型DC」

    企業型DC(企業型確定拠出年金)は、企業が提供する退職金制度の一つで、将来の資産形成を目的とした制度です。

    企業が拠出した掛金を従業員自身が運用し、その運用成果を60歳以降に年金または一時金として受け取ります。

    企業にとっては福利厚生制度の一環であり、従業員の退職後の資金形成を支援する仕組みと言えるでしょう。

    運用次第で将来受け取る額は変動しますが、その分公的年金とは別にまとまった資産形成ができる可能性があります。

    ただし、企業型DCは基本的に60歳まで引き出せないため、計画的かつ強制的に積み立てられる点も大きな特徴です。

    企業型DCのメリット

    企業型DCには、将来の資産形成を後押しする大きなメリットがいくつかあります。具体的なメリットは以下の通りです。

    • 税制優遇による資産形成効果
    • 老後資金を計画的に準備できる
    • 転職時に資産を持ち運べる

    税制優遇による資産形成効果

    企業型DCの最大のメリットは、税制優遇が手厚いことです。まず、企業が拠出する掛金は給与所得として扱われず、全額が非課税で積み立てられます。

    また、通常、金融商品で得た利益には約20%の税金がかかりますが、企業型DCの運用益は非課税です。その結果、利益を再投資する複利効果が最大限に活かされ、長期的な資産増加が期待できます。

    さらに、企業型DCで積み立てた資金は60歳以降に一時金または年金として受け取れますが、この受取時にも税制優遇が適用されます。

    一時金で受け取る際は、退職所得控除の対象となり、勤続年数に応じた大きな控除を受けられます。年金形式で受け取る場合も、公的年金等控除の対象となるため、一定額まで非課税で受け取ることが可能です。

    老後資金を計画的に準備できる

    企業型DCは、原則として60歳まで引き出せないため、強制的に資産を積み立てられる点が大きなメリットです。これにより、確実に老後資金を用意できると言えるでしょう。

    「貯金しようと思っても、つい使ってしまう」という方でも、企業型DCなら制度として自動的に積立が行われるため、無理なく資産形成が可能です。

    また、運用商品は投資信託や定期預金など多彩な選択肢があり、自身のリスク許容度に合わせた運用が可能です。

    企業によっては、従業員が掛金を追加拠出できる「マッチング拠出」を認めている場合もあり、より効率的な資産形成を目指すこともできます。

    企業が掛金を拠出してくれることに加え、老後資金を計画的に準備できるのは、企業型DCの大きなメリットと言えます。

    転職時に資産を持ち運べる

    企業型DCの大きな特徴は、転職した場合でも、それまで積み立ててきた資産を持ち運べる(ポータビリティ)点です。

    従来の退職金制度では、勤務年数や企業ごとの規定に左右されやすく、転職によって十分な退職金を受け取れないケースも少なくありませんでした。

    しかし、企業型DCでは加入者ごとに個別の口座で管理されるため、転職先の企業型DCや個人型DC(iDeCo)に資産を移換して、継続的に運用できます。

    これにより、キャリアが変わっても資産形成を中断することなく、将来の老後資金を計画的に積み上げられます

    「企業型DC」のデメリット

    企業型DCは、将来の資産形成に有効な手段ですが、注意すべきデメリットもいくつか存在します。具体的なデメリットは以下の通りです。

    • 60歳までは引き出せない
    • 自己責任での資産運用が必要
    • 運用結果次第で元本割れのリスク

    60歳までは引き出せない

    企業型DCは、原則として60歳になるまで資産を引き出すことができません。そのため、急な病気や子どもの学費などでまとまった資金が必要になっても、途中で取り崩せない点に注意が必要です。

    ただし、脱退一時金の受給要件(拠出期間が短いなど)を満たせば、例外的に資産を引き出すこともできます。

    自己責任での資産運用が必要

    企業型DCでは、従業員自身が運用商品を選び、その運用成果(利益・損失)について責任を負う仕組みになっています。

    加入時に運用商品の配分を決められ、その後も市場の動向に応じて見直しが可能です。このため、ある程度の金融知識や資産管理の意識が求められます。

    適切な運用を行わなければ資産が目減りするリスクもあるため、「自分の判断で資産を増やさなければならない」というプレッシャーは、企業型DCのデメリットの一つと言えるでしょう。

    運用結果次第で元本割れのリスク

    企業型DCでは、運用の成果によって将来受け取る金額が変動します。

    例えば、預金商品を選べば元本確保はできますが、その分、期待できるリターンは低くなります。一方、投資信託などのリターンを狙える商品を選ぶと、市場の変動によっては元本割れ(積立元本を下回る損失)のリスクがあります。

    企業型DCはあくまで「自分で運用する私的年金」であるため、運用成績が悪ければ将来受け取れる金額も少なくなり、場合によっては、企業が定めた退職金額を下回ってしまう可能性もある点に注意が必要です。

    企業によっては、加入者向けの金融リテラシー向上のための教育機会が用意されるケースもありますが、基本的には自分自身で資産運用について学ぶ姿勢が求められます

    退職金制度と前払い退職金を併用できるケース

    退職金制度と前払い退職金を併用できるケース

    退職一時金と企業型DCを併用している企業の中には、「前払い退職金」も選択できるケースがあります

    具体的には、企業が退職金として拠出する一定額を「企業型DCの掛け金として積み立てる」か「前払い退職金として毎月の給与に上乗せして受け取る」か、従業員が選択できる仕組みです。

    もし、企業型DCへの加入を選択しない場合は、その拠出予定額が前払い退職金として毎月の給与に上乗せされます。

    例えば、月額2万円を企業型DCに拠出できる制度がある場合、この2万円が前払い退職金として給与に上乗せされるということです。

    この選択肢がある企業では、退職時に退職一時金をまとめて受け取る一方で、企業型DC分の金額を前払い退職金として給与に上乗せして、日々の収入を増やすことも可能です。

    企業型DCと前払い退職金を一覧表で比較

    企業型DCと前払い退職金は、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。両者の特徴を下記の比較表で詳しく解説します。

    項目 企業型DC(確定拠出年金) 前払い退職金制度
    受取タイミング 原則として60歳以降に年金または一時金で受け取り。
    在職中は引き出せない。
    在職中に給与や賞与に上乗せして受け取り。
    退職時にまとまった額は受け取れない。
    税制優遇 ■ 掛金拠出時:
    所得税が全額非課税で積み立て可能
    ■ 運用益:
    運用益も非課税で再投資可能
    ■ 受取時:
    退職所得控除などの税制優遇がある
    毎月の上乗せ額は給与所得として課税対象。退職時の税優遇は受けられない。
    社会保険料の負担 掛金は報酬に算定されないため、社会保険料は増えない。 前払い退職金分を含めた報酬額で標準報酬月額が算定されるため、保険料負担が増加する。
    資産の流動性 原則60歳まで引き出し不可。
    途中解約・現金化も不可。
    給与に上乗せされるため、自由に使える。
    急な出費にも充当できる。
    資産形成の可能性 運用次第で増減。
    非課税による複利効果で元本以上の資産形成が期待できる。
    在職中に受け取ったお金を自ら運用しない限り増えない。
    計画的に貯蓄・運用しないと老後資金が貯まらない。

    まとめ

    前払い退職金と企業型DCは、どちらも退職金制度の一環ですが、その性質は大きく異なります。前払い退職金は在職中の収入を増やせる一方、税制優遇や長期的な資産形成の点では不利となる場合があります。

    一方で、企業型DCは税制上のメリットや計画的な老後資金づくりに優れている反面、60歳まで資金を自由に引き出せないといった制約もあります。

    自社の人事制度や従業員のライフプランに照らし合わせて、最適な制度を選択することが重要です。

    より詳細な比較や導入検討をご希望の方は、確定拠出年金制度の運営実績が豊富なSBIベネフィット・システムズの資料をぜひご活用ください。

    今、見直しが必要な理由とは 「4大制度」の仕組みや特徴を徹底比較 自社に合う退職金制度の見つけ方

    監修者名
    北 光太郎
    監修者プロフィール
    社会保険労務士で、「きた社労士事務所」代表。企業の労務担当として10年間実務を経験したのちに独立。社会保険労務士として中小企業の労務管理をサポートするとともに、Webメディアの記事やホワイトペーパー、業界専門誌などで人事・労務分野の記事執筆・監修にも注力。実務経験に基づいた専門性の高いコンテンツ制作を通じてメディアの専門性と信頼性向上を支援している。

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