「結局、私の老後資金はいくら必要なのだろう?」――。メディアで「老後2,000万円問題」といった言葉を耳にするたび、漠然とした不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
人生100年時代と言われる現代では、豊かなセカンドライフを送るために、公的年金だけに頼らず、自助努力による資産形成も欠かせません。ただし、やみくもに貯金をするだけでは目標が見えにくいのも事実です。
本記事では、まず自分が受け取れる「公的年金の受給額」を正しく把握し、老後の生活費とのギャップ(不足額)を明らかにする方法を解説します。
その上で、不足分を効率よく準備する手段として「確定拠出年金(企業型DC)」の活用法をご紹介します。
老後資金の目標額を決める「3つのステップ」
老後資金の準備において最も重要なのは、「自分にはいくら足りないのか」という具体的な数字(ゴール)を把握することです。
老後資金の目標額は、次の3つのステップで整理できます。
1.公的年金の受給額を知る
まずは、老後の収入の柱となる公的年金(国民年金・厚生年金)を将来いくら受け取れるのかを確認します。
受給額が明確になることで、その後の対策も立てやすくなります。
2.老後の生活費を予測する
次に、老後にどのような生活を送りたいかをイメージし、毎月の支出額を見積もります。
「現在の生活水準を維持したい」「旅行や趣味を楽しみたい」「質素に暮らせればいい」など、ライフスタイルによって必要な金額は大きく異なります。
3.不足額(ギャップ)を計算する
予測した生活費(支出)から年金受給額(収入)を差し引きます。
(毎月の生活費-公的年金受給額)×老後の年数=不足する老後の生活費
この計算式で算出された金額に、住宅の維持費や医療介護、葬儀などのライフイベント費を考慮した金額が、現役時代に準備しておきたい「老後資金の目標額」となります。
自分の公的年金額を調べる方法

では、ステップ1で確認すべき「公的年金の受給額」は、どのように調べればよいのでしょうか。ここでは、代表的なツールとその見方を解説します。
「ねんきん定期便」の見方
日本年金機構から毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」は、公的年金額を把握する上で最も身近な手段です。
ただし、年齢によって記載内容の意味合いが異なる点には注意が必要です。
50歳未満の方に届くもの
記載されているのは、「これまでの加入実績に応じた年金額」です。これは、現時点で保険料の納付をやめた場合に受け取れる金額に近い数値を示しています。定年まで働き続けた場合の「将来の受給見込額」ではないため、金額を見て過度に不安になる必要はありません。
50歳以上の方に届くもの
こちらには「老齢年金の見込額」が記載されています。現在の加入条件や給与水準が60歳まで続くと仮定して算出された金額で、老後の生活設計を考える上で参考にしやすい数値です。
「ねんきんネット」や厚生労働省「公的年金シミュレーター」の活用法
とくに50歳未満の方が、将来の受給額をより具体的に把握したい場合は、以下のWebサービスを活用するとよいでしょう。
■ ねんきんネット(日本年金機構)
マイナポータルなどと連携してログインすることで、詳細な年金記録を確認できます。
また、転職や給与の変動、受給開始時期の変更(繰り下げ受給など)を反映した受給額の試算も可能です。
■ 公的年金シミュレーター(厚生労働省)
IDやパスワードの登録不要で、生年月日や年収を入力するだけで、簡単に受給額を試算できるツールです。
「ねんきん定期便」に記載された二次元コードを読み込めば、より精度の高い試算結果を確認できます。
公的年金だけでは足りない?平均受給額と生活費の現実

実際に、公的年金だけで老後の生活費を賄えるのでしょうか。ここでは、平均的なデータをもとに、シミュレーションしてみましょう。
会社員(厚生年金)の平均受給額データ
厚生労働省によると、厚生年金受給者(会社員)の平均年金月額は「約14万7千円(※1)」です。
また、夫が会社員、妻が専業主婦などの標準的なモデル世帯(夫婦2人世帯)では、年金受給額の目安は「月額約22〜23万円程度(※2)」とされています。
これはあくまで平均値であり、現役時代の年収や加入期間によって個人差はありますが老後設計を考える上での一つの目安として把握しておくとよいでしょう。
※1 参考:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
※2 参考:日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
ゆとりある老後生活に必要な資金額
一方で、老後の生活費はいくら必要なのでしょうか。
生命保険文化センターの調査によると、夫婦2人で老後生活を送る際に必要と考えられている最低日常生活費は平均で「月額23.9万円」、さらにゆとりある老後生活を送るために必要な生活費は平均で「月額39.1万円」とされています。
- 老後の最低日常生活費:月額23.9万円
- ゆとりある老後生活費:月額39.1万円
※ 参考:生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」
ゆとりある老後生活の水準を目指す場合
前述で確認した通り、夫婦2人世帯の年金受給額は「約22〜23万円」です。老後の生活期間が25年(65歳〜90歳)続くとすると、
16万円(39万円-23万円)×12ヶ月×25年=4800万円
ゆとりある老後生活の水準を目指す場合、公的年金とは別に「4,800万円」が必要になる計算です。
不足分を「企業型DC」でどう準備するか
数千万円という不足額を見ると不安に感じるかもしれませんが、時間を味方につければ、無理なく準備することは可能です。
その有効な選択肢の一つが、勤務先が掛金を拠出する「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。
企業型DCにおいては、月額5.5万円から6.2万円への拠出限度額の拡大(2026年12月1日施行)が決定しています。
また、マッチング拠出において、これまで「加入者掛金は事業主掛金額を超えない」という制限が設けられていましたが、2026年4月1日からこの制限が撤廃され、拠出限度額の範囲内でより自由に拠出できるようになります。
これにより、今まで以上に老後資金を準備しやすくなる環境が整いつつあります。
目標額から逆算する毎月の積立額シミュレーション
例えば、30歳から60歳までの30年間で、老後資金「2,000万円」を準備したいとします。金利0%で貯める場合、毎月約5.6万円の積立が必要です。
一方、企業型DCを活用し、年利3%で運用できた場合、毎月の積立額は約3.4万円まで抑えられます。
さらに年利5%で運用できれば、約2.4万円の積立で2,000万円に到達する計算になります。早く始めるほど、少ない負担で大きな資産形成が期待できます。
節税メリットを生かしながら効率よく増やす考え方
企業型DCの大きな特徴の一つが、運用益が非課税である点です。
通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、企業型DCでは運用益に課税されません。利益をそのまま再投資できるため、資産の増加ペースを速めやすくなります。
また、会社が掛金を拠出するだけでなく、従業員が給与から上乗せできる「マッチング拠出」や、掛金への拠出とするか前払退職金として受け取るかを選択できる「選択制DC」を活用すれば、拠出額に応じて所得税・住民税の負担を軽減できる点もメリットです。
従業員への「投資教育」の再強化
拠出額が増えるほど、従業員が運用する資産額も大きくなります。それに伴い、運用成果が老後資金に与える影響も大きくなります。
企業には、従業員に対する投資教育の「努力義務」があります。
制度を活用するにあたり、従業員に対して「なぜ今、資産形成が必要なのか」「長期・分散・積立投資にはどのような意味があるのか」を改めて伝えることは重要です。
制度という仕組みの整備に加え、教育面での支援を行うことで、制度の効果をより高め、従業員満足度の向上にもつなげられます。
まとめ
老後資金に「いくら必要か」の答えは、人それぞれ異なります。
公的年金は終身で受け取れる心強い基盤ですが、それだけで十分にゆとりある老後を送るのは難しい時代になっています。
不足分を効率よく、かつ税制面のメリットを生かしながら準備できる仕組みとして、企業型DCの活用が有効です。
これから企業型DCの導入を検討されている経営者様や、制度内容を見直したいご担当者様に向けて、導入から運用までのポイントをまとめたガイドブックをご用意しています。
制度設計の具体的な事例や、従業員への投資教育の進め方についても詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
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