中小企業の退職金制度として広く普及している「中退共(中小企業退職金共済)」。国の助成を受けながら手軽に導入できる制度として、多くの企業で活用されています。
一方で、企業の成長などに伴い、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」への移行を検討するケースも見られます。
本記事では、中退共と企業型DCの制度の特性や違いを整理した上で、中退共から企業型DCへ資産を移換(持ち運び)するための条件や移換できない場合の対応策について解説します。
中退共から企業型確定拠出年金への移行はできる?
中退共の資産を企業型DCへ「移換」することは可能ですが、そのハードルは非常に高いと言えます。
中退共は中小企業のための制度であるため、資産を移換して引き継げるのは、企業の規模が拡大して中小企業の範囲を超えた場合」や「合併等の組織再編」があった場合に限られます。
単に「運用性の高いDCに切り替えたい」という理由だけで、現在の中退共の積立金をそのままDC口座に移動させることは原則としてできないため、注意が必要です。
中退共(中小企業退職金共済)とは?

そもそも中退共は、国(独立行政法人勤労者退職金共済機構)が運営する、中小企業のための退職金制度です。
企業が毎月掛金を納付し、従業員の退職時に機構から従業員へ直接退職金が支払われるため、自社で資金を管理する手間がかかりません。
中退共の主なメリット
中退共には以下の通り、さまざまなメリットがあります。
■ 国の助成がある
新規加入時や掛金増額時に国からの助成を受けられ、企業の負担が軽減される
■ 管理が容易
掛金の管理や運用を外部機関が行うため、社内事務の負担が少なくて済む
■ 受取額が確定している
基本退職金は予定利回りに基づいて計算されるため、運用リスクを負いたくない従業員にとっては安心感につながる
企業型DCとの違い
企業型DCは、企業が拠出する掛金を原資として「従業員自身が運用商品を選び、その運用成果によって将来の受取額が決まる」という点が中退共と大きく異なります。
また、中退共は役員の加入ができませんが、企業型DCは役員の加入も可能です。
中退共から企業型DCへ資産移換できるケースとは
中退共から企業型DCへ資産を移すことは、会社や従業員の希望があればできるものではなく、原則として以下のいずれかの理由で中退共契約を解除する必要があります。
1.企業規模の拡大(中小企業でなくなった)
従業員数や資本金が増え、中退共の加入要件(業種ごとに定められた基準)を超えてしまったケースです。
この場合、中退共を脱退しなければならないため、資産を企業型DCへ引き継ぐことが認められます。
2.他の企業との合併
合併先の企業がすでに企業型DCなどを導入している場合は、制度を統一するために中退共を解約し、資産を移換することが認められています。
退職金制度の変更は、従業員の労働条件に関わる重要な事項です。中退共の解約および企業型DCへの資産移換について、原則として従業員に対する十分な説明と同意が求められます。
また、移換をするには、合併等をした日から1年以内に資産移換の申出を行うこと、移換先の企業年金制度が中退共から資産の移換を受けられること、合併後も中小企業者であることなど、必要な要件をすべて満たす必要があります。
中退共から企業型DCを検討している場合の対応策

前述の通り、中退共から企業型DCへの移行は、「企業の規模が拡大して中小企業の範囲を超えた場合」や「合併等の組織再編」があった場合に限られるため、企業が制度の見直しを行う際は、以下のいずれかの方法が検討されます。
- 対応策1:中退共を残したまま、別途企業型DCを導入
- 対応策2:従業員の同意を得て中退共を解約後、不利益にならない条件で企業型DCを導入
対応策1:中退共を残したまま、別途企業型DCを導入
中退共と企業型DCは併用が認められています。現在の積立金(中退共)はそのまま運用を継続し、新たに企業型DCを上乗せして導入することが可能です。
この方法であれば中退共を解約する必要はないため、これまでの掛金実績をそのまま維持できます。
同じ従業員が複数の制度に加入できるため、「基本部分は中退共で手堅く、上乗せ部分は企業型DCで自助努力を促す」といった設計も可能です。
さらに、2025年の法改正成立を受け、企業型DCは以下の制度改正が予定されています。
2026年4月1日施行:マッチング拠出の制限撤廃(従業員が会社掛金以上を拠出可能に)
2026年12月1日施行:拠出限度額の引き上げ(月額5.5万円から6.2万円へ)
これらの改正により、限度額の範囲内であれば従業員がより自由に掛金を設定できるようになり、今まで以上に効率よく老後資金を準備できる環境が整います。
導入パターンも「事業主掛金のみ」「選択制」「マッチング拠出」「事業主掛金+選択制」など多岐にわたり、事業主の想いや企業の財務状況などに合わせて柔軟に設計できます。
ただし、併用する場合は掛金限度額の管理や、就業規則(退職金規定)の対応など、専門的な知識が不可欠です。専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
対応策2:従業員の同意を得て中退共を解約後、不利益ならない条件で企業型DCを導入
従業員の同意を得て中退共を解約したのちに、不利益にならない条件で企業型DCを導入する方法です。
中退共を解約するためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 従業員の同意が得られたとき
- 掛金納付の継続が困難であると厚生労働大臣が認めたとき
中退共を解約すると、その時点までの積立金が「解約手当金」として、会社を通さずに従業員に直接支払われます。
これは本来の退職タイミングよりも前に支払われるため、一時所得として取り扱われ、確定申告が必要となる場合があります。
まとめ
中退共から企業型DCへの資産移換は、企業規模の拡大や合併といった特殊なケースを除き、基本的にはできません。
そのため、多くの企業では「中退共を維持しながら企業型DCを導入する(併用)」か、あるいは「中退共を一度解約し、新たに企業型DCを構築する」という選択をするといった対応を検討することになるでしょう。
どちらの手法が最適かは、貴社の福利厚生の目的や財務状況などによって異なります。
「自社の退職金制度を見直したい」「中退共と企業型DCを併用する事例を知りたい」とお考えの経営者・担当者様は、ぜひ制度比較の資料をご活用ください。
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